2022年1月10日月曜日

第2925話 上野のお山 鶯の谷 (その2)

そうして上野のお山。

西郷さんの隣りにある彰義隊の墓の脇を抜け、

動物園正門前を横切って東京都美術館。

興味を持った展示は期待ほどでなく拍子抜け。

ぐるり一周したら、すぐさま退館に及んだ。

 

普段は行かない国立博物館の裏手を歩く。

ふ~ん、東京藝大の付属高校なんてあるんだネ。

寛永寺霊園の向こうの森にカラスが密集している。

まだ明るいうちから早寝のカラスが

戻って来てカァカァとかしましい。

 

跨線橋の新坂を下り、鶯谷ラブホ街の入口に来た。

突っ切って行きつけの町中華で飲み直そうか―。

近道を抜けようとすると、

何度も店先を通った小料理屋「順子」が営業中。

 

以前、立て看板に“本わさび使用です”と一筆あり、

心に留め置いたのを思い出す。

本わさといっても大手メーカーのチューブにだって

“本わさび”と明記(誤記?)されてるし、

にわかには信じがたい気がするヨ。

 

この日はタイミングがよかったせいか

未訪の店にスッと入ってしまった。

「順子」なんてスナックみたいな名前だが

内装もまさしくスナックの居抜き。

ママ、じゃなかった、女将独りの切盛りだ。

 

ビールはエビスのみで中瓶と黒の小瓶。

いや、マイッたな。

さっき同じサッポロの生を

2杯飲んだことだし、ガマンしようぜ。

胸に聞かせてこないだ北区・十条の「斎藤酒場」で

飲んだばかりの黒ビールの小瓶を―。

 

突き出しのおせち三点盛りは

わかさぎ甘露煮、うずら豆、くわい丸煮。

豆の傍らの真っ赤なチョロギがまぶしい。

 

芋焼酎・山ねこのロックに切り替える。

おすすめボードにあった岡山産シャコを通すと

立派なわさびと鮫皮のおろし板が目の前に置かれた。

いや、スゴいねェ、本物だったヨ。

 

ところが出て来たのはシャコじゃなくて北海タコ。

「あっ、タコって聞こえちゃったんだ」―つぶやくと

「えっ、違うの?」―女将が応ずる。

「シャコって言ってたヨ」―これは隣りのお客。

「いいヨ、タコでも」―おもむろにわさびを卸す。

 

これをきっかけに隣客との会話がスタート。

仕方ないから苦手なエビスビールを

10年ぶりに飲み始める。

 

話に花が咲き、女将がシャコを2尾、

サービスしてくれたこともあり、

結局、中瓶3本空けちまったヨ。

けしてエビス顔にはなりませんでしたがネ。

 

「順子」

 東京都台東区根岸1-3-21

 03-3871-5329