2022年1月28日金曜日

第2939話 歓びつかの間 いかめんち (その1)

新小岩で乗ったJR総武線を御茶ノ水で下車。

駅周辺にも飲み屋はあるが

駿河台からだと南に小川町・神保町、

あるいは北の本郷・湯島と丘を降るしかない。

 

莫久来(ばくらい)で飲みたくて湯島に決めた。

そう、桑名から来たクサヤ親父と酌交に及んだ、

奥様公認酒場「岩手屋」である。

ただし、此度は支店のほう。

 

やっぱり美味いねェ、好きだなァ。

中瓶のドライがスイスイ喉元を滑り落ちてゆく。

突き出しは岩手より山形チックなコンニャク煮。

 

莫久来を清酒用に半分残しておいて

品書きの吟味に入った。

おお~っと、いかめんちがあるぜ。

当店でコレを見るのは初めて。

と言うより、ヨソではまず見かけることがない。

 

イカメンチとくれば、思い出すなァ。

かつて麻布十番にあった洋食屋「ミスターガーリック」。

閉業して13年近くの歳月が流れたが

自著「庶ミンシュラン」(2008)では

二つ星を捧げた。

解説を縮めて紹介したい。

 

麻布十番の裏町に潜む隠れた迷店。

個性あふれる店主による独裁国家のような洋食店。

若い女性が単身で迷い込んだら命の保証はできない。

というのは冗談で、こんな店が1軒くらい、

都会風田舎町にあってもいいじゃないか!

 

あれは数年前、イカメンチなるおでん屋みたいな、

洋食を出す店があると、風のたよりに聞いた。

オーソドックスなハンバーグやメンチカツを

究極の料理に仕立てるため、

血道を上げる店主の存在も耳にした。

 

イカの身を叩いて揚げるイカメンチは二重丸。

付合わせの温製ポテトサラダもけっこうだ。

「たいめいけん」出身のオヤジの作る

規格外の料理に敬意を表し、大奮発の二つ星。

 

そうでありました。

オヤジさんは80代も後半になられよう。

元気な日々を送っているのだろうか?

 

面白いもので個性的な店主の分布は

業種によって偏りが見られる。

むろん絶対ではなく、相対的なハナシだ。

異色派は鮨屋、うなぎ屋、洋食屋に目立ち、

そば屋、天ぷら屋、とんかつ屋はおとなしい。

どうしてそうなるのかな?

 

=つづく=