杉並区・永福町に66年続く、
伝説の中華そば店「大勝軒」のカウンターにいる。
家を出るとき、まさか40年ぶりに
此処へ来るとは夢想だにしなかった。
相変わらず品書きはいたってシンプル。
中華麺1130円 チャーシューメン1340円
生玉子50円 メンマ210円
ザッツ・オール。
つけ麺などない。
というよりハナから作るつもりがない。
餃子の“ギョ”の字もなければ
麦酒の“ビ”の字もない。
40年前と同じ中華麺をお願いした。
待つこと8分、デッカいドンブリが着卓。
具材はチャーシュー4枚(肩ロース&もも2枚づつ)、
メンマ、ナルト、きざみねぎ、そして柚子皮1片。
中太ちぢれ麺は2.5玉ほどありそうだ。
これまたデッカいレンゲでスープを一匙。
美味いねェ、当店の命はスープである。
煮干し3種・かつお節2種・枯宗田節・さば節に加え、
豚骨・豚背脂、さらに玉ねぎ・じゃが芋で出汁を取る。
それも半端な量ではなく、他店の追随を許さない。
このスープが不味いわけなどあるものか―。
反面、麺には特徴なく、歯ざわり、のど越しより
量が量だけにノビにくいことこそ第一条件なのだ。
味の決め手はスープに尽きるものネ。
丸20年前の8月、こんなことがあった。
今は駅南口に移っているが
まだ北口にあった時代の大岡山「むらもと」。
何の予備知識もなく、たまたま入ったラーメン店だ。
ラーメンを注文すると、どこかで嗅いだ匂いがした。
ハッと思い当たってスープをすする。
おう、おう、コレはアレじゃないか―。
「失礼ながら永福町の『大勝軒』にそっくりですネ」
「ハイ、まったく同じです」
店主、誇らしげに応えたものだ。
修業先の味を寸分の狂いなく継承していた。
さて、永福町。
接客係が小まめに注ぐお冷やに力を得ながら頑張った。
結果、スープは完飲したが麺を半分残しちまった。
やはり残すのはあと味が悪く、
二度と来られないだろうなァ。
食べたくなったら大岡山に行くか―。
あすこにはミニラーメンまであるからネ。
スープの香りに送られて、まだ明るい町に出た。
「永福町
大勝軒」
東京都杉並区和泉3-5-3
03-3321-5048