2022年1月14日金曜日

第2929話 その手は桑名の焼きクサヤ

新年早々、三重県・桑名市から

のみとも・Nチャンが上京して来た。

日帰り出張につき、早めに仕掛けて

早めにトンズラしたいとのたまう。

 

文京区・湯島の「岩手屋 本店」に落ち着いた。

自称・奥様公認酒蔵はすぐ近くに

「岩手屋 支店(七福神 岩手屋)」を構えるが

先代同士が兄弟だったものの、現在は独立採算。

聞きかじりの情報につき、真偽のほどは判らんがネ。

 

カウンターの一番奥に陣を取り、

赤星を注ぎ合ってグラスを合わせた。

突き出しはひたし豆、青大豆を出汁に浸したものは

みちのくや信州ではポピュラーな惣菜といえる。

各自好みの肴ということで

当方は莫久来、相方は牡蠣入り湯豆腐を通す。

 

莫久来はホヤとこのわたを合わせた珍味。

ばくらいと音じる。

珍味職人(こんな職人もいるんだネ)の

小野正行サンが発案、創作したものだ。

ホヤの見た目が機雷に似ており、

爆発を連想させることから命名された由。

酒盗や塩辛のような生臭さとは無縁で

“有ればお願い”の好物である。

 

当店の清酒の主力銘柄・酔仙の樽酒に切り替えた。

杉の樽香が鼻腔をくすぐり、莫久来に寄り添う。

2杯目でホヤとこのわたのナイス・コラボを

お替わりしたいところだが野暮はできない。

餃子屋で餃子もう1枚とはワケが違うんだ。

小粋な珍味が小粋じゃなくなるからネ。

 

早くも酔仙3杯目。

J.C.が岩手つながりで小岩井チーズを追加すると

何を血迷ったかNチャン、クサヤを注文しやがった。

隣りに客が居るにも関わらず。

 

わりかし匂いの穏やかなタイプだったが

それでもかなりの匂い、いや、臭気である。

いや、マイッたな。

何でもカミさんに釘を刺されているらしい。

「ウチでクサヤは食べないで―。

 食べるなら外で食べて来て!」

 

年末に五反田のおでん屋「若ちゃん」にて

居合わせたグループのおすそ分けに

与ったばかりのクサヤ。

丑と寅の年末年始に異臭の連荘と来たもんだ。

 

見ると奴サン、手づかみで身をほぐし、

開いた口に放り込んでる。

こちとら開いた口がふさがらんヨ。

こりゃ別れ際に握手なんか絶対できないゾ。

その手は桑名の焼き蛤ならぬ、焼きクサヤ。

 

「オカちゃん、お一つどうぞ」

「いや、トンデモない!」

 

上野広小路の交差点でサヨナラしたが

握手はもとより、グータッチすら避けといた。

ああいうモンは外で食わずにウチで食えヨ、ったく。

 

「岩手屋 本店」

 東京都文京区湯島3-38-8

 03-5836-9588