2011年3月11日金曜日

第9話 的矢の牡蠣に最敬礼!

牡蠣の季節も残りあとわずか。
季節が過ぎれば、半年近くのお別れだ。
自分の好きな食べものを思い浮かべると、
牡蠣は間違いなく3本の指に数えられる。

 柿食えば 鐘が鳴るなり 法隆寺
                 (正岡子規)

 牡蠣食えば 喉が鳴るなり わが身かな
                 (J.C.オカザワ)

なのであります、いや、お粗末。

先の土・日は2日間連続の散歩日和。
昨夏の猛暑がウソみたいなこの冬には
貴重な天の恵みであった。
武蔵野のはずれに遊んだのは土曜日。
翌日曜は谷根千をひとめぐりして駒込から白山を周回。
途中で沈丁花の香りを幾度もかいだ。
多少の寒気がぶり返してこようとも、もう春なのだ。
木々が芽吹き花開き、山菜が出回るようになると、
やがて牡蠣が別れを告げる時が来る。

白山の坂を下り、小石川に差し掛かって
「クイーンズ伊勢丹」の前に出た。
散歩の途中、スーパーマーケットに出くわすと、
店内を徘徊することが多い。
鮮魚・精肉・青果の三鮮売り場を見て回るのだ。

この日も迷わず入店。
そして思いも掛けぬうれしい出会いがあった。
まずはご覧あれ。

5粒入りで798円也

道東・三陸・瀬戸内と、牡蠣の名産地は数あれど、
J.C.がこよなく愛するのは三重県・的矢の産である。
牡蠣においては濃厚クリーミーよりも淡麗フレッシュが好み。
ここであったが百年目、小躍りして買い求める。
この出会いにより、本日の夕食は自宅に決定。
ほどよく肉割れした肌が輝くバチまぐろの赤身も買った。

せっかくの生食用牡蠣だから生でいただく。
と言っても、このまま生で食するのは愚の骨頂。
ふたたびご覧あれ。

汚れやあぶくが見えるでしょう?

これをザルにあけ、まんべんなく振り塩を施す。
すばやく強く小刻みにザルを横振りすると
灰色に濁ったアクが次から次と出るわ出るわ、
あまりの光景に初めての人は言葉を失うだろう。

あえてそのアクをお目に掛けることは慎むが
みたびご覧あれ。

塩振り後に水洗いして水気を切った牡蠣

汚れを落とされ、塩で〆られ、
プルルンと張りつめた柔肌の美しさ。

 やは肌の あつき血汐にふれも見で
       さびしからずや 焼いて食う君

1粒はそのまま、次の2粒にはレモンを搾り、
最後の2粒は甘酢を作って酢がきにしてみた。
これには手製の山わさび醤油漬をあしらったりもして。
このようにして文字通り手塩に掛けてやらなければ
牡蠣は旨みを閉じてしまい、その本領を発揮してくれない。
それにしてもすばらしすぎる的矢の牡蠣に
あらためて最敬礼!

「クイーンズ伊勢丹 小石川店」
 東京都文京区小石川1-17-1
 03-5840-6231