2011年3月28日月曜日

第18話 秀子の愛したウズラ料理 (その2)


銀座コリドー街のミシュラン一つ星、
「ル・シズィエム・サンス」でのディナーは魚料理に進んだ。
食材はいつの間にやら
高級魚の仲間入りをはたしてしまったキンキである。
フランス料理店でキンキはお初にお目にかかる。
英米人と違い、仏人は珍魚を好んで食するが
彼の地でキンキを見たことはない。
ラスカス(鬼カサゴ)やロッテ(鮟鱇)は何度も食べたのに。

皮目も美しいキンキのポワレ

一夜干しと煮付けには定評があるが
ポワレもまたけっこうであった。

いよいよ当夜の主役たちが登場。
S木シェフ、渾身のジビエ3連発は
ウズラ・山しぎ・猪の揃い踏みだ。
それぞれ2人前ずつお願いし、6人で分け合った。

合わせた赤ワインはクロ・ド・ヴージョ ポール・ミセ ’96年
ポマール・キュヴェ・シロ・ショードロン J・C・ボワゼ ’88年
バローロ・グラン・ブッシア アルド・コンテルノ ’96年
そうそうたる顔ぶれで、とりわけバローロが楽しみ。

目の前に運ばれた皿を順に紹介していこう。

猪バラ肉の赤ワイン煮パルマンティエ風

じゃが芋のパルマンティエ風同様に
オーヴンで蒸し焼きにされている。
けして悪くはないのだが煮込みにすると
素材の特質が茫洋となってもの足りなさが残る。

続いてはお待ちかね、
われらが秀子がこよなく愛した料理だ。

フォワグラを詰めたウズラのロースト

これこそウズラのイデコ・タカミネ風である。
冷製のテリーヌにせよ、温製のソテーにしろ、
フォワグラを単体で頼むことはないけれど、
これは別格、あれば避けては通れない。
ブラックトランペット茸が名脇役を務めている。

3皿のうち、もっともジビエらしいのはこれであろう。

ジビエの王者、山しぎのロースト

山しぎは仏語でベカスという。
1995年、ジャン=クロード・ヴリナ氏(この人もJ.C.)が
まだ健在だった「タイユヴァン」で子鳩のベカス風を味わい、
なぜか日本のすき焼きにも似た美味に
舌が鼓をポンと鳴らしたことがあった。

美味しさは甲乙つけがたくとも鳩と山しぎは別物。
野生の物は個体差が激しく、
殊に野うさぎや山しぎには顕著に表れる。
数年前に青山の「ローブリュー」で食べたベカスは
上野動物園のサル山とまったく同じ匂いがしたものだ。
当夜のベカスは大当たりで一同満面の笑みとなった。
僥倖というべし。

気分がよいから普段は食べないデセールを完食する。

ルバーブが主役のデセール

レモン&ルバーブのガトーと苺&ルバーブのソルベ。
あいや、ちょいと待て、完食したのではなく、
半分は誰か甘党にゆずり渡したのかもしれない。
恥ずかしながら、いささか記憶が曖昧だ。
ああ、われ今宵もまた酩酊せしかな。

「ル・シズィエム・サンス」
  東京都中央区銀座6-2-10
  03-3575-2767