2011年3月25日金曜日

第17話 秀子の愛したウズラ料理 (その1)

1955年3月26日。
西銀座の「レストラン・シド」では女優・高峰秀子と
脚本家・松山善三の結婚披露宴がとり行われていた。
「シド」は伝説のフランス料理店である。

余談だが当世では西銀座の呼称が死語となって
めったに使われることがなくなった。
1957年に地下鉄丸の内線・西銀座駅が開業している。
このことから辺り一帯が西銀座と呼ばれていたことが判る。
フランク永井の「西銀座駅前」は開業翌年のヒット曲だ。
東京オリンピックの年、
1964年に日比谷線が通り、駅名が両線とも銀座となる。
皮肉なもので丸の内線・西銀座駅の消滅と同時に
日比谷線・東銀座駅が誕生しているのだ。

秀子サンの披露宴に話を戻そう。
宴のメインディッシュは花嫁のお気に入り、
フォワグラを詰めたウズラのローストであった。
半世紀を経た現在でも人気の高い料理である。
仔羊肉のパイ包み焼きをマリア・カラス風と称するが
誰かあの料理をウズラのイデコ・タカミネ風と
名づけてくれないものだろうか。
仏語でHは無音につき、ヒデコではなくイデコになる。

誰も名づけないから自分でやるしかない。
とある2月の夕べ。
ウズラのイデコ・タカミネ風と出会う機会に恵まれた。
店は西銀座のフランス料理店、
「ル・シズィエム・サンス」である。
その昔、「レストラン・シド」があった場所にほど近い。
食いしん坊集団、「SKYAMKO」の定例会であった。

地下のVIPルームに6人が集い、
晩餐はアミューズの、のれそれのフリットで始まった。
のれそれは穴子の稚魚のこと。

アミューズにとどまらぬ存在感

そう、この店に来たら最期、体重の増加を避けられない。
ついついパンにも手が出てしまう。

3種のパンには有塩・無塩の2種のバター

皿数が多いうえに個々のボリュームもあって
過食は必至と相成るのである。

コースは快調に進んでいった。

ウニのクリームとトコブシのジュレ

ジュレの上にはキャヴィア・鮑・海胆のトッピング。

リードヴォーを添えた緑色野菜のポタージュ

香草の下にはフカヒレや若鶏胸肉が潜んでいた。

上記までがアントレを形成する集団とみてよかろう。
お次は魚料理の出番である。

=つづく=