2011年3月31日木曜日

第21話 この冬最後の牡蠣フライ

高校同期のO切クンに連れられていった神保町の「多幸八」。
これを「たこはち」と読む。
彼曰く、「ここのもつ焼きのタレが好きなんだよな」―である。
初めて訪れたのは7年前の夏のこと。
此度、悲劇のあった「九段会館」屋上の「ビアパーク」で
同期会を催したあと、飲み足りないので流れた。
彼は飲み始めるとハシゴをせずに済まぬ性分。
まっ、当方も負けず劣らずですけれど・・・。

以来、何回か利用している。
佳店に恵まれぬ九段・水道橋あたりで
うろうろしている際、神保町まで足を延ばして
ふらり立ち寄るには恰好のスポットなのだ。

ガラス戸を引いて敷居をまたぐと同時に
煙草の煙りの洗礼をを浴びた。
ここの店主はかなりのヘビースモーカー、
おまけに常連客らしき喫煙者のオバさんが
カウンターで独り酒である。
二人が競い合って火を点けるものだから
店内は夜霧にむせぶ港町さながらだ。

しかるにかつてスモーカーだったわが身、
自他ともに発煙させる紫煙渦巻く中で
さんざっぱら飲んできたから
このくらいのことでヘコタレはしない。
しないが、とてもノンスモーカーにすすめられる店ではない。

とまれ、さっそく定番のもつ焼きを注文する。
串は小ぶりながら5本で300円ポッキリ。
驚くなかれ、鶯谷「ささのや」の立ち食いより安い。
あちらは1本70円ですからネ。
さらにうれしいのは5本の部位が異なることだ。
当夜はタン・ハツ・レバ・ガツ・ナンコツの陣容であった。

これを頼むと必ずタレ焼きで出てくるが
はて、塩焼きも選べるのだろうか。
お願いすれば、対応してくれそうではある。
O切クンが推奨するだけあって
ここのタレは実に旨い、むか~しの味がする。
小学生の頃、父親にくっついて行って食べた、
浅草は「菊水」のそれによく似たタレなのである。
当面、塩でリクエストすることはあるまい。

もつを焼くのは女将サンの担当。
親父サンはもっぱら刺身を受け持つ。
ずっと親父に煙草を吸わせとくわけにもいかず、
何かもう1品と壁の品書きを見上げた。

春の彼岸を過ぎれば河豚はお終い、
牡蠣の終焉もすぐそこまで来ている。
食べられるのも今のうち、
それでは牡蠣フライとまいりましょう。
シーズン中、週に3度は食べる牡蠣である。
各種ミネラルが豊富で
とりわけ亜鉛は味覚の維持に必要不可欠、
普段から摂取を心がけているから渡りに舟だ。

大粒なのが4カン付けで登場した。
何もつけずにパクリとやると、なかなかの美味。
おそらく牡蠣フライはこれがこの冬最後となろう。
有終の美を飾ることができ、満足、まんぞく。

「多幸八」
 東京都千代田区神田神保町2-20-9
 03-3263-1568