2011年5月11日水曜日

第50話 イル・モストロ事件


その日、下車したのは千代田線・代々木上原駅。
午後3時頃だったか、春の陽はまだ高いところにあった。
工事中の改札を出て歩き始める。
東北沢―下北沢―梅ヶ丘―豪徳寺―松原
小田急線から世田谷線沿いの長距離散歩を敢行した。
駅前に着くたびに近辺の商店街を流すので
時間が掛かり、殺風景な松原駅に到達したときは
すでに陽がかげっていた。
  
はて、これからどうしたものか。
このまま北上して下高井戸に向かうもよし。
あるいは豪徳寺か梅ヶ丘まで戻り、
先刻、目星をつけておいた店に入るもよし。
思案の末、Uターンすることにした。

当夜の1軒目は豪徳寺駅前の焼きとん「まつり邑」。
初訪問はなかなかの佳店という印象。
いずれ“にせどろ”シリーズで紹介したい。

有名な「寿司の美登利」が本拠地を構える梅ヶ丘に移動。
いや、すしを食おうというのではない、
「イル・モストロ」なるピッツェリアが気になっていたのだ。
通りすがったとき、店先に薪が積まれてあり、
店内には本国から運ばれた石窯が据えられていた。
これなら本格的なナポリ・ピッツァが味わえるはずである。

薄暗い店内に存在感のある石窯

マルケ産の赤ワインをグラスで頼み、
つまみは小イワシの酢漬けと魚介類のフリット。
イワシは酢が利いてスペイン・バルのボケロネス並み。
フリットはこんなものだろう。
イカとエビだが、ホタテが加わるとベターかも・・・。

そうこうするうちピッツァ・マルゲリータが焼き上がった。
ナポリ・ピッツァの生地は厚い。
厚いのはよいけれど、もっとクリスピーなほうが好みだ。
トマトの酸味が出しゃばりすぎで
逆にバジルはケチらず使ってほしい。
節電のせいか店内は暗く、
カメラの性能も悪くて料理の写真は不発。
仕方がないから目の前のTVをワンショット。

ロイヤルウエディングの真っ最中でした

帰宅後、店名の意味を調べて
モストロ=モンスター=怪物であることが判明。
そして大変なことが判った。
かつてフィレンツェとその近郊で起きた連続殺人が
イル・モストロ事件と呼ばれていたのである。
あまりに長期に渡っており、
同一犯人とするには疑わしい点もあるが
1968年8月から1985年9月までに
8組のカップル、計16人が殺害されている。
被害者が2人のドイツ人男性というケースもあって
1人が長髪だったために誤認されたものと推定される。

休日前夜に停車中の車内にいるカップルが
ベレッタ(イタリア製22口径)で射殺されるのが常。
その後、男性の遺体の一部(主として性器)が切取られ、
女性の身体には多くの刺し傷がみられるのが特徴だ。
イタリアに時効があるのかないのか存ぜぬが
事件は未解決、犯人も捕まっていない。

この2月で開店6周年のピッツェリア「イル・モストロ」。
はたしてオーナーはこの事件を知っているのだろうか?
知ったうえでの店名とあらば、
勇気ある決断か奇抜な悪趣味か
評価が二つに分かれるところであろう。

「イル・モストロ」
 東京都世田谷区梅丘1-23-5
03-3706-2257