2011年5月12日木曜日

第51話 なぜか忘れぬ野菜そば

 ♪  なぜか忘れぬ 人ゆえに
    涙隠して 踊る夜は
    濡れし瞳に すすり泣く
    リラの花さえ 懐かしや ♪
           (作詞:佐藤惣之助)

昭和15年に流行った「緑の地平線」は
典型的な古賀メロディーで歌ったのは楠木繁夫。
デッカい鼻の持ち主は
「さざんかの宿」の大川栄策に風貌のよく似た歌手だ。
原曲ははあまりにもテンポが速く、
聴いていてせわしないこと、あわただしいこと。

美空ひばり、島倉千代子、都はるみ、
小柳ルミ子、石川さゆり、森昌子、春日八郎、
名だたる大歌手がこぞってカバーしている。
名曲にあらずんば、かような現象は起こりえない。

コブシを使わぬひばりはさすが大御所。
反対にコブシがコロコロの千代チャンもけっこう。
はるみ節はいささかトゥー・マッチという感じ。
ルミ子ののびやかな声は曲との相性がよい。
さゆりと昌子は上手いけれど、心に迫りくるものに欠ける。
ハッチーは本家・楠木をしのぐ歌いっぷりで聴かせる。
だが、ベストは意想外のところにいた。
この曲に関する限り、石原裕次郎がなぜかピッタリなのだ。
オールドファンはぜひyoutubeで聴き比べてみてください。

裕次郎のナンバーでは
「赤いハンカチ」、「よこはま物語」、「俺は待ってるぜ」、
「錆びたナイフ」、「北国の空は燃えている」あたりが好き。
数年前に初めて聴いた「緑の地平線」も
即刻、お気に入りの仲間入りをはたすこととなった。

裕次郎本人曰く、歌は素人だからと
紅白歌合戦の出場をずっと辞退し続けたが
ある意味、映画より歌のほうがよかったかもしれない。
けっして俳優より歌手のほうがとは言えないものの、
いまだにそんな気がしてならない。

誰しも”なぜか忘れぬ人”を心の奥に秘めているもの。
おいそれとは口にできない忘れ得ぬ人がいるものだ。
その点、簡単に口にできる”なぜか忘れぬ物”がある。
J.C.の場合はとある店の中華そば。
それもラーメンではなくタンメンなのだ。

千駄木・三崎坂(さんさきざか)のふもとにある「砺波」。
砺波といえば「焼肉酒家えびす」の集団食中毒事件が
世間を騒がせているけれど、
老夫婦二人っきりで営む町の中華屋さんは日々平安。
タンメン、いや、ここでは野菜そばと称するのだが
なぜかときどき食べたくなる。

GW前の土曜の昼下がり。
イカフライを合いの手にキリンラガーをプファーっと。

初めて注文したイカフライがなかなか

ほどなく野菜そばが運ばれる。

純白のどんぶりがよく似合う

見るからに清楚な野菜そばは、さながら西施か楊貴妃か。
このたたずまいに心が和む。

今日のブログのジャンル分けは
「食べる」と「聴く」とで迷ったが
亡き裕次郎の歌声に敬意を表して「聴く」にしました。

「砺波」
東京都台東区谷中2-18-6
03-3821-7768