2011年5月20日金曜日

第57話 板橋宿は今 (その1)

400年も前のハナシ。
お江戸日本橋を基点として旅に出た場合、
最初の一夜の宿となる、いわゆる江戸四宿は
 品川宿―東海道
 千住宿―日光街道・奥州街道
 板橋宿―中仙道
 内藤新宿―甲州街道
江戸時代初期に各街道の初宿として幕府が指定した。

内藤新宿の開設だけが1699年と
ほかの三宿よりも80年ほど遅い。
それ以前、甲州街道の第一宿だった高井戸宿が
ほかの宿場と比べて倍ほどの遠距離にあり、
いろいろと支障を来たしたため、
より近いところに新設されたからだ。

各宿場町の今に至る繁栄はご存知の通り。
ただし、板橋を除いては。
此度はその板橋宿を訪ねてみたい。

往時、この宿場町は江戸から近い順に
下・中・上と三宿に分かれており、
それぞれに別々の元締めが仕切っていた。
現在、JR板橋駅がある界隈は下宿にあたる。
そのせいかどうかは知らぬが
近くには東武東上線・下板橋駅がある。

板橋区は青春時代を過ごした土地。
中学は区立上板橋第一中学校、
高校は都立板橋高校の出身である。
そのくせ板橋駅にはついぞ現れたことがなかった。
そんなことを思いながら
無縁の地を訪れたのは桜のつぼみがふくらみ始めた頃。

駅周辺を中心に小一時間ほどほっつき歩いて
埼京線の踏切そばに「松月」なる古びた居酒屋を見つけた。
店の前の通りは旧中仙道である。
引き戸越しにのぞくとほぼ満席ではないか。
地元の人でこれだけにぎわっていればまずハズレはない。
安心して踏み込める。
運よくカウンターの一席を占めることができた。

店内の貼り紙で目を引くのは”中仙道の味44年”の煮込み。
値段は380円で、まあ標準価格といえよう。
頼まざれば、のちのち悔いを残すことになる。
いの一番に注文した。

トッピングは長ねぎではなく玉ねぎ

これは珍しい、ほとんど見たことがない。

箸をつけて口元に運ぶと白味噌仕立てのこってり味に
オニオンスライスがいい感じでからむ。
熱々の土鍋のおかげをもって
ゆっくりやっても冷める心配がないのがよい。
その間にも客はひっきりなしに訪れ、二階に上がってゆく。
こりゃなかなかの人気店である。

=つづく=