2011年5月13日金曜日

第52話 あの人 この人

日曜日の昼過ぎのこと。
観るともなしに観ていた「素人のど自慢」が終わり、
そろそろ散歩に出掛けようとTVのスイッチを切りかけたとき、
思いがけない顔が画面に映って手がとまる。
そこにはしばらく見ないので
気にかかっていた杉浦直樹の顔があった。
目元と下あごで演技する性格俳優である。

彼を初めて見たのは裕次郎主演の日活映画「錆びたナイフ」。
ボスから差入れられた饅頭が毒入りと知りつつ、
わしづかみにして頬張る狂気の眼が強く印象に残った。
何せ、こちらはまだピカピカの1年生だったんですからね。
この映画は宍戸錠も小林旭も殺しちまってる。
年端もいかない子どもには白黒のサスペンス映画が
薄気味悪くて怖くてドキドキしながら観たのを覚えている。

杉浦直樹が登場したTV番組はNHKアーカイブス。
1996年に放映されたドラマ「鳥帰る」の再放送だった。
先月亡くなったスーちゃんこと、
田中好子を偲ぶ追悼番組である。
結局、散歩はそっちのけで見入ってしまった。
二人ともよかったし、母親役の香川京子もけっこうでした。

キャンディーズがデビューした1973年から数年の間、
海外にいたのであまり親近感がなくファンではなかった。
むしろ1980年に田中好子が女優として
芸能界復帰後のほうになじみがある。
ニューヨークで観た、やはりNHKドラマの「大地の子」が
今もなつかしく思い出される。

田中好子は亡くなるまぎわまで
もっとたくさんの映画に出たいと願っていた。
これを聞いて彼女の最後の主演映画、
「0(ゼロ)からの手紙」を監督した塩屋俊は
映画人の一人として申し訳ない気持ちになったという。
アメリカでは4、50代の女性が
主役を張る映画の企画がたくさんあるのに
日本は低年齢化したコンテンツばかりだと
嘆き、悔しがっている。

まさにその通り。
この国では金儲けが文化・芸術を破壊している。
映画界も悪けりゃTV界も悪い。
文部科学省は何をやっているのだ!
政府も駄目なら総理大臣はこれ以上ないほどの阿呆。
知識人と呼ばれた輩はいったいはどこへ消えたのだ?
大人が子どもを指導・育成できない国がニッポン。
日出ずる国の最大の欠点がそこである。

ハナシを俳優に戻そう。
杉浦直樹の消息が気になって仕方がない。
ほかにも行方が心配な人たちがいっぱいいる。
日下武史は?
園井啓介は?
川地民夫は?
われながら古いや。
家庭に入った笹森礼子と桑野みゆきの追跡は
いささか野暮というものか。

そして誰よりも1963年12月12日、
小津安二郎の通夜の席で
最後の姿を見せた原節子はどうしているのだろう。