2011年5月18日水曜日

第55話 ウズラに驚いたズラ (その2)

藤と桐の町、埼玉県・春日部市に来ている。
春日部駅に近い焼きとん店「福島や」で
仲間たちと生ビールをグイッとやったばかりだ。
肌寒さの残る春浅き宵、
それでもビールの旨さは格別である。
世の中にこんなに旨いものがほかにあろうか。
下戸の方には申し訳ないが心底そう思う。

当夜の目当ては殻付きウズラ玉子の串焼き。
これを殻ごとシャリシャリ食おうというのだ。
世間にはまだまだ想像もつかない、
不可思議な食いモンが実存している。
実存主義の大家、J.P.サルトルもびっくりだろう。

のどをうるおし一息ついて焼きものの注文。
店主みずから、というよりほかに誰もいないから
彼がすべてを取り仕切るのだが
いきなり奈落の底に突き落とされた。
何と、お目当てのウズ玉が売切れだとのたまうではないか。
強烈な肩透かしに哀れJ.C.、
もんどり打って黒房下に転落の巻。
それはないぜ、セニョール! 

前回食べているから今回は食べなくともよい。
ただ、珍品をカメラに収めて読者にお見せしたかった。
アテがはずれてガックリ、それからあとはムッツリ。
疑り深さにかけては他の追随を許さぬ性格が
(売切れじゃないだろ、仕込みをサボったんだろ)
八つ当たり気味に妄想&暴走している。

運ばれた焼きとんを前に食指が動かない。

レバ・ハツ・カシラなど

レベルの高い焼きとんが食欲に直結しないのは
心のキズがまだ癒えていないからだ。
とはいうものの、そこは気の合った仲間うち、
次第にペースが生まれてくる。
生ビールからホッピーに切替え、
”食”はともかく”飲”のピッチは上がってきた。

するとここで店主から思いも掛けぬプレゼント。
「ウズラ、1本だけ残ってましたァ」―
おう、おう、皿の上には確かに勇姿ありき。

黄色いのは辛子じゃなくて黄身

疑り深さがふたたびアタマをもたげた。
コイツは残りモンじゃなくて忙しいなかをわざわざ、
1本だけ仕込んでくれたのだろうヨ。

春日部市民の民心はかくも温かきものなり。
「春日部よいとこ一度はおいで、あ、どっこいしょ」―
わればがらゲンキンなものである。

あとで店主に訊いたことには
彼が修業した北千住界隈ではほかにもちらほら
殻付きウズ玉を供する店があったそうだ。
北千住にはときどき出向き、
焼きとん屋も何軒か訪れているが
今までコイツを見たことはないなァ。
とまれ、「福島や」のウズラには本当に驚いたズラ。

「福島や」
 埼玉県春日部市粕壁東1-13-8
 080-3365-1747 (独りだから携帯なんですネ)