2011年5月23日月曜日

第58話 板橋宿は今 (その2)

旧中仙道、かつての板橋宿で飲んでいる。
居酒屋「松月」はいささか立て込んできた。
出版社勤務の友人から電話が入り、
これからヒマだと言うのでもっけの幸い、
板橋まで直行することを半ば強制的に言い渡す。
ほとんど命令に近い。
到着まで30分もあればじゅうぶんであろう。
いや、仕事の遅いヤツだから、もうちょっと掛かるか。

ビールと煮込みのあとでどうしたものか、壁の品書きを見上げた。
酒は正一合と銘打ってある。
真っ当な店なのだ。
深山雪(290円)、初孫(370円)、澤の井(520円)、
初めて見る東京の銘柄、滝野川(520円)は
地元の要請で造られた酒なのだろうか。
そう、この一帯は滝野川の町である。
隣りの客の注文した厚揚げ焼きがバカデカく登場した。
あまりにデカいものだから、こちらの領域を侵犯している。
ここで細かいことをとやかく言うJ.C.ではない。
笑みをたたえて余裕の構えを崩さない。

つまみ類のラインナップは
本日の特売のいか大根煮が210円。
新じゃが煮は300円、小肌酢が350円、
脂の乗ったとろかつおは480円だ。
わざわざメスと但し書きのある本ししゃもが330円と安い。
ポテト、マカロニ、ハムの揃い踏み、
言ってみれば、サラダ三兄弟はオール380円也。
せっかく板橋くんだりまで北上してきたのだ、
今宵はもう2軒はツブさないと気が済まない。
かくして追加を断念、会計を決断した。
これから目星をつけ、狙いをしぼるために市中見廻りである。
鬼平こと、長谷川平蔵にでもなった気分。

おっとり刀で駆けつける友には
まず食事を摂らせないといけない。
落ち合ってから向かったのは「あぺたいと」なる店。
何でも高島平に本店を構えるチェーン店かフランチャイズらしい。
高島平といえば、できたときには都内最大の団地群だった。
一時は“自殺の名所”などと、
不名誉きわまりない異名をとった時期もあった。

「あぺたいと」の名代は両面焼きそばなる一品。
鉄板の上に焼きそばの玉を着地させたら
あとはあんまり動かしたり、ほぐしたりせずに
ジックリと火を通すのだそうだ。

まずはビールをお願いし、
そのアテに本日のおすすめから、3種盛りを注文。
内容はチャーシュー・ピリ辛メンマ・ゆで玉子とあった。



実際はメンマでではなく味付けザーサイ

断りもなしに平気でこういういい加減なことをする店が
旨かったためしはない。
やれやれ、どうなることやら・・・。

=つづく=

「松月」
 東京都北区滝野川6-86-11
 03-3916-1572