2011年6月17日金曜日

第77話 9年ぶりのダッタンそば

ダッタンそばをご存知でしょうか? 漢字で書けば韃靼蕎麦。
欧州では韃靼のことをタタールとかタルタルなどと呼ぶ。
北アジアから中央アジアに棲む民族、タタール人を指す言葉だが
定義はあいまいで欧州人にとってはほぼモンゴル人と同じ。
モンゴル軍の西方遠征に多くのタタール人が参加したために
混同されたものと思われる。

タタールの語源はギリシャ語で地獄を意味するタルタロス。
生肉をたたいたタルタルステーキもここから来ており、
あれもずいぶんと血なまぐさい料理だ。
ユッケもタルタルの仲間で先ごろの事件はまさに地獄であった。

中央アジアで産するダッタンそばが
日本で食されるようになったのはたかだか十数年前。
ルチンが日本そばの100倍も含まれているため、
そばそのものだけでなく、そば茶まで急速に普及した。
ルチンは血流をよくしたり、関節症に効き目があるという。
中国でもよく食べられるが彼の地で韃靼は差別的名称、
苦そばと称されており、これを苦肉の策という。

そのダッタンそばに出会ったのは2002年秋のこと。
大岡山の「志波田」で食べた。
黄色、いや、黄土色、いやいや、ウコン色が一番近いかな?
なかなかに印象的な色合いをしていた。
中国の人々が苦そばと呼ぶほどの苦味は感じなかった。
日本そばより旨いともいえないが不味くはなく、
たまにはこういうのもアリといった位置づけだろうか。
そうそうお目に掛かるものでもないから
以来、トンとご無沙汰だった。

過日、普段通りに週末の散歩。
この日のルートは、門仲から牡丹・古石場を廻り、
越中島から相生橋を渡ったら佃・月島を抜けて
勝鬨橋で築地に入り、銀座に至るというもの。
起点の門前仲町駅に降り立ったのは正午過ぎだ。
胃袋が脳みそに「メシよこせ!」と叫んでいる。
「物色中だからちょっと待て!」―脳みそも負けてはいない。

深川不動参道の茶漬け屋「近為」に赴くも待ち人10名弱。
1500円もする茶漬けだぜ! 世の中、リッチな人が多いや。
犬も歩けば棒にあたる、J.C.も歩けば店にあたる。
胃袋の叫びを無視して散歩のスタート。
歩き始めて10分、「あさのや」なるそば屋に遭遇した。
都内に「浅野屋」はクサるほど存在するが
かな表記の店は稀有だ、というより初めての顔合わせ。
品書きにダッタンそばを見とめ、即入店と相成った。

金800円也のダッタンそば

それほど黄色みを帯びていないし、苦味もまったくない。
とまれ量少なめにつき、1分と持たずに残りは一つまみ。
ここであわてて金250円也のかやくごはんを追加した。
でなきゃ、胃袋の野郎が納得しない。

キューちゃんみたいなのと桜大根付き

そば湯を吸い物代わりに一気に平らげる。
ふむふむ、薄味仕立てでマアマアですな、これは。
それよりも、よくぞビールを我慢したネと
自分をほめて、散歩の継続、継続。

「あさのや」
 東京都江東区牡丹3-6-2
 03-3641-5889