2011年6月23日木曜日

第81話 ムツにもいろいろありまして (その1)

今日はムツの話題。
ムツといっても紙オムツのムツじゃない。
そういやあ、紙以外のオムツってトンと見掛けなくなった。
昭和の昔は小さな赤ん坊のいる家の物干し台なんかに
何枚ものサラシのオムツが
それこそ鯉のぼりの子鯉たちのごとく、
ヒラヒラとはためいていたものだ。
あの景色、いま一度見てみたい。

ムツはムツでもサカナのムツである。
スズキ目ムツ科のムツは漢字で鯥と書く。
睦み合いの睦の字の偏だけを
サカナにして、いかにも当て字っぽい。
ムツにもいろいろありまして
それぞれ分類が異なるものの、
ムツ・黒ムツ・赤ムツ・銀ムツが一応、ムツ四天王になろうか。

ムツと黒ムツはしばしば混同されるが、ともに肉食の深海魚。
どちらも見るからに獰猛な面構えをしており、
口の中をのぞくと犬歯がズラッと並んで
ちょいとした鮫ですぜ、コイツは。

赤ムツは別名ノドグロと呼ばれる高級魚。
主に北陸から山陰にかけて分布し、
刺身はもちろん、煮ても焼いても美味である。
仲間の中でもっとも高価なのがこれだ。

銀ムツはマジェランアイナメのこと。
その名の如くマゼラン海峡近辺で多く水揚げされる。
ムツや黒ムツと勘違いされて
消費者のの混乱を招くことから近年はメロと呼ばれるが
いまだに銀ムツのほうが通りがよい。
日本ではフランスからの輸入物がよく出回っている。

都内各地に点在する良質な居酒屋といえば「三州屋」。
完全にオヤジたちの憩いの場になっている。
都内有数のオヤジの街、神田には南口に1軒、
神田警察通りの表と裏に1軒ずつと計3軒。
独立採算制ながら、メニュー構成は似通っている。
昼は定食屋、夜は居酒屋の二面性も各店共通だ。
いずれもただ「三州屋」を名乗るだけだから
きわめて紛らわしいのだが
J.C.の気に入りは勝手に名付けた「三州屋裏通り店」。

昼めしを食いはぐれた午後3時半過ぎ。
居酒屋が暖簾を出すにはまだ早い時間に
神田で独りウロウロしていた。
そこで思いついたのがこの店である。
ひょっとしたらまだ定食にありつけるかもしれない。
「岸壁の母」よろしく、われは来ました、今日も来た、
もしやもしやにひかされて・・・。

思惑通り、この時間でも定食OKであった。
実は酒の肴によく注文する銀むつのあら煮で
飯を食べたいと思っていたのだ。
念願かない、金850円也の定食を頼みましたヨ。
ところがである。
世の中そうそう、上手くは運びませんナ。

=つづく=