2011年6月21日火曜日

第79話 焼き台前は常連専用 (その2) にせどろ千夜一夜 Vol.3

やれやれと3席しかない窓辺にたたずんで飲むビール。
名画「ショーシャンクの空に」の一シーンがまぶたに重なる。
主人公の活躍でプリズナー全員に
ビールが振る舞われるあのショットだ。
くれなずむ塀の外を遠望しながらのビールは実に旨そうだった。

この飲みものを一番旨く感じるのは夕暮れどき。
食うためとはいえ、一日中会社に奉仕して
やっと解放される時間に飲るビールは自由の象徴である。
J.C.はそれが飲めなくなる環境に身を置かぬためにも
常々、罪を犯さぬよう心がけている。
気をつけていてもモンテクリスト伯やリチャード・キンブルのように
無実の罪を着せられることがあるから油断はできない。
いずれにしろホリエモンはご苦労なこってス。
これこそ“ご同情のいたり”である。
ビールのない日々なんて紐のない越中ふんどしより哀しい。

豪徳寺駅の乗降客をぼんやりと眺めながら、
われに返ってコンクリート打ちっぱなしの店内を見渡す。
そしておもむろに品書きを手に取った。
ちなみにサッポロ黒ラベル中瓶(500円)とともに
運ばれたお通しはきゅうりとにんじんのぬか漬け。

飲みものは麦焼酎・まつり邑(450円)、
芋焼酎・黒霧島(500円)、本醸造浦霞(550円)、
酎ハイ(400円)、生レモンハイ(450円)、
ホッピーセット(450円)といったラインナップだ。

10種類ある焼きとんは120円均一。
タン・ハツ・カシラを塩、レバ・シロをタレで焼いてもらう。
豚足(500円)のハーフポーション、
半足(300円)を同時に注文。
豚のアンヨのほうはそれなりだが
焼きとんのレベルの高さにいささか驚かされた。

生レモンハイに切り替え、にこみ豆腐(600円)と
白もつ皿(400円)というのを追加する。
にこみは豚もつの部位が豊富で
フワ(肺)の存在が殊更にうれしい。
卓上には一味と七味の両揃えと、気が利いている。
壁に“名物もつ皿”とあった一皿には
きざみねぎがあしらわれ、醤油を掛けて味わう。
ついでにレモンハイのレモンを搾るのも妙案。

焼き台の前に陣取れるのは常連のみ

店主は常連との会話を楽しみながら
ひたすら串を焼き上げてゆく。

行きたくもないトイレに行くフリをして地下に降りると
1階とは打って変わってゆったりとしたレイアウト。
若い娘が三人でサワーか何かのジョッキを傾けていた。

勘定は二人で4000円と少々。
ちとつまみを取りすぎたきらいあり。
実は2軒目に近所のイタリアン「フィレンツェ」を想定していた。
短角牛のタリアータでワインを飲む腹積もりだったが
もうとてもとても肉を食う気になんかなれない。
近頃、わが食はどんどん細るいっぽうでありんす。

「まつり邑」
 東京都世田谷区豪徳寺1-43-2
 03-3427-4493