2011年6月24日金曜日

第82話 ムツにもいろいろありまして (その2)

花のお江戸の神田に3軒ある「三州屋」のうち1軒にいる。
南口に1軒、北口に2軒もあることは昨日書いた。
暖簾や看板に明記されてはいないが
北口の2軒は神田警察通りに面しているほうが”神田本店”。
通りの裏側にあるのが”神田駅前店”というのだそうだ。

だが、これが紛らわしい。
駅からだと”本店”のほうが近いくらいで
”駅前店”はややこしくて到達しにくい。
よってJ.C.は前者を”表通り店”、
後者を”裏通り店”と称することにしている。
こう覚えておいたほうがずっと都合がよい。
2軒はごく至近にあるのでくれぐれもお間違えのないように。

此度いるのは気に入りで行きつけの裏通りのほうだ。
料理も”表”より上だし、何と言っても店内の雰囲気がいい。
昭和の香りの立ち込める懐旧の酒場がここにある。
昼と夜のはざまに飛び込んで
銀むつあら煮定食をお願いしたところであった。
ついでにビールの大瓶を1本。
中瓶がなく、大・小の二者択一で銘柄はサッポロ黒ラベル。
そうそう、昨日のブログで
うっかり銀むつ煮付けと記してしまったが
正しくは銀むつあら煮である。

ビールと一緒に大根葉と白菜をきざんだ浅漬けが出た。
間髪おかずにチョッピリのポテトサラダ。
これはおそらくポテサラがお通しで
きざみ浅漬けは定食に属する一品なのであろう。

ほどなく銀むつあら煮・赤だし・どんぶりめしが運ばれた。
めしの量にたじろいで、半分以下に減らしてもらう。
赤だしは豆腐と三つ葉の正統派だ。
違和感を感じたのはあら煮で普段よりも色黒な感じ。
定食を食うほうのサラリーマンなら
初夏の陽射しを浴びて日焼けすることもあろうが
食われるほうの銀ムツが日焼けをする道理がない。

赤だしを一口すすっておもむろにあら煮をチェックすると、
やけに脂っこそうだし、皮目も黒い。
ハハ~ン、こりゃ黒ムツのあら煮を出して来やがったな。
この店のあら煮は両方あって
確か黒は銀より50円ほど安かったハズだ。

まっ、いいか、ここで黒むつは初めてだし、味わってみようか。
われながら実に寛容な対応である。
ところが、これがイケなかった。
情けも過ぐれば仇となるのことわざ通り。
脂のしつこさははハンパでなく、匂いにはクセがあり、
しかも骨ばかりで身肉がほとんど付いていない。

鼻白んでビールを飲み干し、ごはんを少々残してお会計。
このとき何気なしに勘定書きに目を落とすと、
定食の850円が消され、820円に書き直されていた。
ホラ、案の定だ。
まあ、いいでしょう、いいでしょう、
事情の説明はなかったものの、
ちゃんと訂正するところは佳店の証しでしょうよ。
許す、許す、J.C.は許す!

「三州屋 裏通り店(神田駅前店)」
 東京都千代田区内神田3-22-5
 03-3252-3035