2012年10月8日月曜日

第420話 明治17年創業のケトバシ屋

坂田金時こと金太郎ゆかりの足柄をあとに
小田急線で途中下車したのは町田であった。
1970年から2010年までの40年間で
人口が2倍以上に激増した町田市は
東京の南のはずれにある。

狙いを定めたのは2軒。
1軒目は近頃都内にも散見される焼き小籠包の店だ。
上野アメ横でも池袋北口でも見かけた。
町田の店は「小陽生煎饅頭屋」という長ったらしい名前。
テイクアウト主体ながら店先での立食も可能。
と、この稿をここまで書きかけたのは
都営地下鉄三田線の車内だが
目の前に座った野球帽のオッサンが
広げたスポーツ新聞の一面に目が釘づけになった。
 大滝秀治死去
ここ半月の間に伊丹十三監督、宮本信子主演の「タンポポ」と
降旗康男監督、高倉健主演の「駅 STATION」をTVで観たばかり。
また一人希有な名脇役が逝ってしまい、まことに残念なり。

さて、注文とほぼ同時に出された焼き小籠包。
カタチは小籠包より焼売に近い
初めて口にしたものの、
こりゃ蒸篭で蒸した通常の小籠包のほうがずっと旨い。
おそらく持ち帰るに便利だろうと
商魂たくましい誰かが発案したものと思われる。

長居はせず、本命の2軒目に移動した。
こちらは以前から来てみたかった馬肉専門店の「柿島屋」。
いわゆるケトバシ屋は明治17年(1884年)創業だ。
この年、グリニッジの世界標準時が定まり、
日本では全国天気予報がスタートした。
時代劇でおなじみの清水の次郎長が賭博の罪により、
懲役7年の刑に処せられたりもしている。

さすがに老舗、広々とした店内は快適なり。
ただし人気店につき、来客引きも切らず相席を余儀なくされる。
ここでは馬刺しの(並)と(上)、肉なべの(並)を
それぞれ1人前ずつ所望した。
馬刺しの(並)¥800

馬刺しの(上)¥1200
この店は鍋よりも刺しが断然よい。

写真で見比べると(上)の色艶が勝っているように見えるが
どうしてどうして(並)の歯ざわり、噛み心地が捨てがたく、
アメリカ人あたりに食わせたら(並)に軍配を挙げるのではないか。
相方のR子も同意見で、とにかく桜刺しの醍醐味を味わった。
 咲いた桜になぜ駒繋ぐ、駒が勇めば花が散る
馬肉は言わずと知れた桜肉、
昔の人は粋な呼び名をつけたものだ。

町田の町をあとにして真っ直ぐ都内に戻ればよいものを
その夜はそうはいかなかった。
のみともとは元来、そういうものである。

「小陽生煎饅頭屋」
 東京都町田市原町田4-5
 電話ナシ

「柿島屋」
 東京都町田市原町田6-19-9
 042-722-3532