2012年10月25日木曜日

第433話 切られ与三の木更津へ (その1)

この夏に始動した八州廻りもいよいよ大詰め。
締めに訪ねたのは総州・木更津だ。
木更津と聞けば第一に思い浮かぶのは
歌舞伎狂言の「与話情浮名横櫛」であろう。
世にいう「切られ与三郎」、
いや、「お富さん」といったほうが通りがいいか。

1960年、今は無き大映が
「切られ与三郎」のタイトルで映画化している。
前作「弁天小僧」の成功に気をよくしての第二弾。
主役・与三郎が市川雷蔵なら
メガフォンは伊藤大輔、カメラは宮川一夫。
前作とまったく同じ鉄壁のトリオである。
脇を固めるお富を演じたのは淡路恵子、
蝙蝠安が多々良純ときたもんだ。

雷蔵ファンを自称するJ.C.、ニヒルな魅力あふれる、
「眠狂四郎」や「陸軍中野学校」も好きだが
それらを抑えて弁天&切られ与三がわが心の飛車角だ。

とにかく上野から京成線の電車に乗り込んだ。
最近、遠出をするときは必ず、
行きがけ、あるいは帰りがけの駄賃を目論むのだが
当日もご多分にもれずであった。
途中下車したのは千葉中央駅で京成千葉の一つ先。

なぜか千葉の街にはなじみが薄い。
まだ、お天道様が南西上空にある時間帯に立ち寄ったのは
あらかじめチェック済みの「旨いもん食堂かどや」。
通常、こんなセンスのない名前の店には近づかないが
諸般の事情からほかにチョイスがなかったのも事実だ。

結果、読者のご想像通りにダメでやんした。
鳥つくねとホルモン焼きをつまんだものの、
あまりにレベルが低くて
ホルモンなんかレトルトをあっためただけみたいなヤツ。
肩を落として支払いを済ませ、
今度はJR千葉駅まで歩き、飛び乗ったのが内房線。
思い出すまい、嘆くまい、行く手に幸多かれと祈るばかりだ。

そうして到着した木更津。
一世紀半前には与三郎が新内を流した漁師町である。
西口を出たらそのまま一直線に夕陽に向かう。
ここもメインストリートの商店街がサビれはてている。
江戸時代のほうがよほど賑やかだったろうなァ。

実は木更津でもちょいと悪い予感がしていた。
理由はやはり店名にあった。
10分ほど歩いてたどり着いた大型店は
港に面したその名も「活き活き亭」。
ねっ、ほらっ、この名前じゃ期待できないでしょ?

=つづく=

「旨いもん食堂かどや」
 千葉県千葉市中央区中央4-2
 043-216-5355