2012年10月16日火曜日

第426話 マンハッタンから来た女

最近ニューヨーク在住の友人が
出張だの休暇だので続々と日本に帰って来る。
名古屋の呉服店の長女・K美子もそんな一人。
本来なら婿養子でもとって家督を継ぐ運命なのに
どうしたものか、今じゃマンハッタンの料理人だ。

勤め先は「Locanda Verde」なるイタリアン。
シェフのアンドリュー・カルメリーニの作る料理は
評判が上々でかなりの人気店と聞いた。
店のオーナーがあのロバート・デ・ニーロだから
各界スターの出入りも日常茶飯事、
これが客入りに寄与している面もあろう。  

K美子の里帰りは2年ぶり。
毎度、名古屋へ帰郷する前に東京で一緒に飲む。
今回は浅草を案内した。
最初に街のランドマーク「神谷バー」へ。
台東区浅草1丁目1番地1号の所在地は
まるで浅草発祥の地でもあるがごとくだ。

K美子にとっては初めての「神谷バー」。
いつものように2階の「レストラン・カミヤ」に落ち着き、
話を聞いてブッタマゲたネ、
ここの息子と彼女の元旦那が友だち同士なんだとサ。
息子はやはり神谷クンというのだそうだ。
それはともかく、かきフライとポテサラをおいしく食べ、
生ビールと電気ブランをおいしく飲んだ。

2軒目はかんのん通りの「志ぶや」。
季節モノのビール、キリン秋味と芋焼酎・和助のロックだ。
つまみは小肌酢に北寄貝と北海縞海老の刺身。
「縞海老は初めてだろ? コレ食ったら甘海老を食えないゾ」
「でもネ、時期になるとボストンでいい甘海老が揚がるのヨ」
なるほど、彼女は料理人であった。
鮎を食べたいというので塩焼きを1尾。
時期が時期だけに子持ちなのはしょうがない。
案の定、腹子はよいが
子に栄養分をとられた身肉は鮎本来の持ち味を失っていた。

続いてホッピー通りの「正ちゃん」に流れる。
遠目にもテラス席が立て混んでいるのが判った。
到着してびっくり、外国の若い女の子が団体で
グラスやジョッキを傾けているではないか。

連中の隣りに腰をおろすと、聞こえてきたのはフランス語。
遠来のマドモワゼルに話しかけねば失礼にあたるだろう。
すみやかに会話を始めて(もちろん英語で)素性が判明した。
共学か女子大かは訊きもらしたが、みんなリヨンの女子大生だ。
店内が落ち着いたので店主・正ちゃんもテラスに現れ、ともに飲む。

花咲く乙女たちの突然の襲来に気をよくした正ちゃん、
彼女ら全員にオンザハウスでワンモア・ラウンドときたもんだ。
浅草っ子の粋な計らいに
マンハッタンから来た女も感心することしきり。
見上げた夜空にまあるい月がポッカリ浮かんでた。

 秋風に 隣りのギャルの 金の髪

「神谷バー」
 東京都台東区浅草1-1-1
 03-3841-5400

「志ぶや」
 東京都台東区浅草1-1-6
 03-3841-5612

「正ちゃん」
 東京都台東区浅草2-7-13
 03-3841-3673