2012年10月26日金曜日

第434話 切られ与三の木更津へ (その2)

木更津港を臨む「海鮮茶屋 活き活き亭」。
建物自体が何だか大雑把で
はとバスでも乗り付けてきそうな気配だ。
どれどれサカナはさぞかし活き活きと泳いでいるんだろうと、
ショーケースをのぞいてみたら、何じゃこりゃあ!
品揃えのプアなことはなはだしい。
スイマーは皆無であった。
ネットで調べたときは活け車海老が泳いでいたのにねェ。
結局、蛤と牡蠣を2粒ずつ食べるにとどめた。
遠路はるばる無駄足を踏んだことになる。

長居は無用だ、新内流しのごとく市内の散策を開始した。
もっとも気に染まる店の物色にすぎないけれど・・・。
地元に揚がったサカナで一杯飲りたい、
そんな気持ちでいっぱいだった。

木更津駅前の「好美寿司」に入店する。
フツーの町場の鮨屋だが店構えは悪くない。
それにこの夜は強い味方がついていた。
へへへっ、こんなこともあろうかと
携えてきたのは本わさびとおろし板だい!

着いたつけ台は親方の正面。
周りに客の姿はなくとも
ざわめきが聴こえるのは奥の座敷の宴席だろう。
ここに三味(しゃみ)の音色でも届いてくりゃあ、
「切られ与三」の世界そのものだぜ。

さあてとガラスのケースに目を落とす。
ありゃりゃ、何だヨ、ここもヤケに寂しいなァ。
それでも好物の蝦蛄と小肌がいてくれた。
女将にお燗をお願いし、親方の許しを得てわさびをおろす。
ともに地物じゃあるまいが生わさびのおかげで活き返った。
白身もまぐろもすでになく、あとは平貝と甘海老くらいのもの。
つまみをちょこちょこ計4点にお銚子を2本で切上げた。

実は気になる店がもう1軒。
目抜き通りを外れながらも角地にあって入口が二つ。
懐旧の気持ちをくすぐる「木村屋食堂」だ。
ここを看過するわけにはいかない。
暖簾をくぐると作業着姿のオジさんとアンちゃんが
オムライスをかっ込んでおり、これがとてもいい匂い。

こちらはまずビールと牡蠣フライ。
おっと、小ぶりな牡蠣が意想外の旨さじゃないか。
平らげたあとも前2軒が品薄だったために
胃袋にはまだ多少のキャパが残っている。
ラーメンと迷った末、オムライスをさすがに少なめでお願い。
すると、
ワワッ! 出た、出た、出ました、出ちゃったヨ!
何が出たんだ! ってか?
いやはや、とうとう出たのは逆転サヨナラホームランですがな。
和・洋・中がみな揃う「木村食堂」はこの日一番の当たりであった。

てなこって八州廻りはめでたく大団円。
しばらくは江戸の市井に身を沈めようと思う。
そう、そう、ちなみに映画の与三郎は
故あって牢を破り、関八州のおたずね者に身を落とす。
血のつながらぬ愛しの妹と二人、
江戸湾に入水してゆくラストがはかなく美しく、涙を誘う。

「海鮮茶屋 活き活き亭」
 千葉県木更津市富士見3-4-43
 0438-22-5666 

「好美寿司」
 千葉県木更津市中央1-2-1
 0438-22-2847

「木村屋食堂」
 千葉県木更津市富士見2-1-6
 0438-22-2786