2012年10月24日水曜日

第432話 百円玉で買った揚げ玉

下町風の天丼が食べたくなった。
胡麻油がプ~ンと香り、
丼つゆも濃いめの辛めがいい。
関西風というか、京風というのか、
サラダ油なんぞで揚げたんではまったくもの足りない。

江戸湾の小魚に恵まれる東京は玉子入りのコロモを付け、
胡麻油でカリリッと揚げるのがいかにもそれらしい。
一方、昔から魚介不足の京都あたりでは
野菜や山菜を玉子抜きのコロモで揚げ、塩で食する。
これは胡麻油じゃ合わないもんねェ。

天丼を求めて出掛けたのは浅草。
「大黒家」、「三定」、「葵丸進」が
浅草の天ぷら御三家という感じながら
この3軒には感心しませんなァ。
浅草はけして”天ぷらの都”ではないのだ。
観音さまのご利益で観光客を相手に
比較的ラクな商売を続けてちゃ、
進歩もなければ向上心も湧き起こるまい。

以前、往年のカリスマ予備校講師、
金ピカ先生と訪れたことのある「多から家」の敷居をまたいだ。
そういえばあのとき、
店主がかつて金ピカ先生の教え子だったと名乗り出て
しばし会話が盛り上がったっけ・・・。

注文したのは穴子芝海老天丼(1400円)。
内容は穴子1尾、芝海老の三連イカダ、ブラックタイガー1尾。
やはり天丼に穴子が参入すると存在感が格段に増す。。
豆腐味噌椀、キャベツもみとともにいただき、満足、マンゾク。

勘定を済ませていると引き戸が開いて一人の婆サンが登場。
手には揚げ玉の袋が二つ握られている。
そういやあ店先で揚げ玉が1袋100円で売られてたっけ・・・。
つい誘われてオツリにもらった百円玉を戻し、1袋買い求めた。

それから数日後、自宅でブランチの際、
豆腐と三つ葉の味噌汁に揚げ玉を浮かべてみた。
おおっ、なかなかいいじゃないの。
アッサリした食事の味噌汁に投ずると効果てきめんだ。

そのまた数日後、
カップそばの明星かけそばでっせにも入れてみた。
シンプルなかけそばが江戸風たぬきそばに変身である。
ややっ、カップの天ぷらそばよりずっといいじゃん。
そりゃそうだ、真っ当な天ぷら屋の揚げ玉だもの。
ただし問題が一つ。
独り身ではいっくら使ってもまったく減ってくれない。
消費しきるのに1年はかかりそうだ。
そのうち油ヤケしてくるだろうし、
飽きたこともあって、今じゃ少々持て余し気味だ。

ここで思い出すのは2袋買って帰ったあの婆サン。
住まいでは大家族が待ってるのだろうか。
独り暮らしじゃないにしても爺サンと二人きりじゃ
両方とも健康を害するぜ、それが気がかりな今日この頃。

「多から家」
 東京都台東区浅草1-11-6
 03-3841-0519