2012年10月10日水曜日

第422話 豆州より相州へ (その1)

関八州見廻り旅の一環だが、その日は相州を突き抜け、
管轄外の豆州・伊東まで足をのばした。
豆州は伊豆の国、伊豆半島丸ごとである。
意外にも江戸時代には伊豆諸島をも治めていた。
その流れもあり、
明治の世になって静岡県に組み込まれた諸島だったが
島民と商人による東京府への帰属嘆願運動や
古くから伊豆より江戸との行き来が
盛んだったことも相まってほどなく東京府に移管された。

さてと、およそ30年ぶりの伊東だ。
さっそく徘徊し始めると、町全体に寂寥感が漂っている。
 温泉地 かつての栄光 今いずこ
   (温泉地って季語かな?)
2時間近くぶらぶらしたものの、
とてもじゃないが夕刻まで時間のつぶしようがない。
さすれば立ち去るしか手立てがない。
もう二度と来ることはないだろう。
そう思うと、一抹の寂しさがよぎるが
これもまた時の流れ、人の定めだ。

コレを書きながら今聴いているのは
岸洋子が歌うカンツォーネ集。
掛かっているのは「死ぬほど愛して」。
ピエトロ・ジェルミ監督、映画「刑事」のテーマだ。
 ♪ アモーレ アモーレ アモーレ アモーレ ミオ ♪
ラストシーンが胸を打つ。
連行される恋人を追って走るカルディナーレが痛ましい。
痛ましくも美しい。
恋人役はニーノ・カステルヌオーヴォ。
「シェルブールの雨傘」ではドヌーヴの恋人でしたネ。

熱海で電車を乗り換えながら、次の立ち寄り先を模索する。
ちょくちょく出向く横浜まで戻ったんじゃ面白くも何ともない。
候補地は大磯・平塚・茅ヶ崎あたりか。
行く宛もなく降りたのは平塚の駅だった。
下調べも何もしていないが、そこは蛇の道はヘビ、
勝手に鼻が利いて落ち着き先をかぎ当ててくれるだろう。

相模湾と駿河湾に沿って走る東海道本線沿線の町は
駅の南側、海に臨むサイドが開けているハズ。
平塚も例外ではあるまいと、
緩やかな坂を下ったものの住宅街ばかり。
これは様子がおかしいゾ、Uターンして駅に舞い戻り北側へ。

広くもない繁華街だから、めぼしい店はすぐ目につく。
最初に出くわしたのは「大黒庵本店」なるそば屋。
日本そば屋なのに客の9割がラーメンを食べて行く、と謳う。
それも開業以来60年の長きに渡って。
こういうのにブチ当たっちゃうと看過できないのがわが弱点。
入店を決断するのに10秒とかからなかった。

注文するのはラーメンと決めていても一応メニューを手に取る。
ラーメン系だけでもスゴい品数だ。
瓶ビールを頼み、おつまみの項に目をやると
 板わさ  メンマ  チャーシュー  天ぷら盛合わせ
たった4品のみ。
ラーメンをすすってビールを空けたら即移動が賢明であろう。

=つづく=