2012年10月23日火曜日

第431話 ドーバーソールはプレスティージ 古く良かりしニューヨーク Vol.5

ここんとこ古巣ニューヨークから友人が
続々と一時帰国して来る。
連中と飲む機会が多くて
思い出話に花を咲かせることたびたびである。

そんなこってつい先日、
お届けしたばかりの”ニューヨークシリーズ”を
もう一発いってみます。

=ドーバーソールはプレスティージ=

舌平目はムニエルになるために生まれてきたようなサカナ。
英語でも仏語でもソールと呼ばれる。
この名称、ゴルフのプレイ中によく耳にする。
「シューズのソールはラバーに限るネ」
「バンカーではクラブのソールを付けちゃダメ」
なんてネ。
舌平目の姿はシューズやクラブのソールによく似ていて
日本の九州でも小さなカレイ類を”靴底”なんて呼んでいる。

あまたあるソールの中で
王様はドーバー海峡から揚がるドーバーソールだ。
しなやかに引き締まった身肉は
伊達公子の太ももを思わせて元気ハツラツ。
(この頃は公子サンの全盛期であった)
お味のほうもすこぶるよろしい。
ニューヨークにも盛んに空輸され、
フレンチでもイタリアンでも高級店は仕入れているハズ。
このサカナこそプレスティージ・フィッシュ、
いわゆるその店の威信や名声を担うサカナなのだ。

「Parioli Romanissimo」は
ニューヨークで5本の指に入る高級イタリアン。
ここでは素焼きをマスタードソースでいただきたい。
イタリア人はあまりムニエルを食べない。
地中海産のブランズィーノ(スズキ)の入荷があったりすると、
ソールと迷うこと必至だ。
ポルチーニや仔牛など、北イタリアの旨いものが揃う名店である。

「La Cote Basque」 はニューヨーク屈指の高級フレンチ。
ドーバーソールを切らすことはまずない。
ムニエルにレモンを搾るのもいいし、
グリルならエストラゴンの効いたベアルネーズソースが抜群。
ただクラシックな料理が多く、日本人の胃袋には重過ぎる。
もうちょいデリケートな皿を供給してほしい。
チャーミングな内装のおかげで居心地がいいだけに残念だ。

ひるがえってわがニッポンの舌平目は赤でも黒でもやや小さめ。
フランスとイギリスの間の狭いドーバー海峡で
どうしてあんなに立派なソールが揚がるのか不思議でならない。

「Parioli Romanissimo」
 24E. 81st St
  212-288-2391

「La Cote Basque」
  5E. 55th St.
  212-688-6525