2012年10月18日木曜日

第428話 ありし日の数寄屋橋 (その1)

昭和33~36年頃。
週に1度は家族4人揃って
近所の映画館へ出掛けたものである。
夕食後の楽しみだったのだ。
当時は京急・平和島に住んでいた。
高架化される前の平和島駅は
”学校裏”というヘンチクリンな駅名だった。

通った美原劇場は旧東海道の美原通りにあり、
家からは徒歩3分ほどの距離。
映画館はとっくの昔に消えたけれど、美原商店街は健在だ。
よく観たのは東映のチャンバラに取って代わった日活アクション。
日活ダイヤモンドラインを構成した四人組、
石原裕次郎・小林旭・赤木圭一郎・和田浩治の主演作が
ほとんどでやはり裕次郎が多かった。
ちなみに日活女優陣のパールラインというのもあって
浅丘ルリ子・芦川いづみ・笹森礼子・吉永小百合・
中原早苗・清水まゆみの6人がその陣容。

マイトガイ・旭がルリ子と競演した、
「東京の暴れん坊」(1960年)を初めて観た。
斎藤武市がメガホンをとった作品は実に隠れた傑作で
同じトリオによる前年の「南国土佐を後にして」より好きだ。
いきなり始まった同名主題歌に度肝を抜かれる。
花の都・パリが歌い込まれ、シャンゼリゼやセーヌ河、
はたまた凱旋門にモンマルトルが登場するかと思うと、
ジルベール・ベコーとイヴ・モンタンまでお出ましときた。
いやあ~、オサレなこと。

挿入歌の「イチョサン節」がまたすばらしい。
「ダンチョネ節」、「ズンドコ節」に匹敵する佳曲と言ってよい。
銀座にある銭湯の男湯の湯船で歌う旭の歌声に
女湯の客がこぞって聴き惚れるという設定。

 ♪ 娘という字を ヤッコラヤァノヤァ
    分析すれば ノォ千代さん
    自分で判って いい女 いい女 ♪
            (作詞:西沢爽)

今のところこの曲はこのDVDを観なければ聴けないハズだ。
5月に亡くなった中原早苗がバーのマダムで女湯の客。
「松の湯」の番台に座るのが一人娘のルリ子だからたまらない。

映画はとある大学の体育館でスタートした。
大学OBの旭が現役相手にレスリングの稽古をつけている。
横でフェンシングのマスクを取り、
笑顔を見せたのは大学後輩のルリ子だ。
ふ~ん、レスリングとフェンシングねェ、
とても1960年の映画とは思えませんや。

映画が封切られた2ヵ月後にローマ五輪が始まった。
あれから52年、今年はロンドン五輪の年だった。
レスリングは金、フェンシングは銀メダルを獲得したから
映画は半世紀も前に時代を先取りしていたことになる。
う~む、おそれいりやした。

画面替わって銀座の上空。
カメラが数寄屋橋から日比谷方面をとらえたときには
思わず身を乗り出しちゃった。

=つづく=