2012年10月19日金曜日

第429話 ありし日の数寄屋橋 (その2)

小林旭主演の「東京の暴れん坊」は銀座が舞台。
カメラが数寄屋橋界隈をとらえている。
あゝ 懐かしの日劇よ!
日劇の屋上に”東芝(Toshiba)”の名前が見える。
1年前に完成したネオンサインで夜はいっそう目立った。
手前左は阪急デパートが入居していた東芝ビル。
建て替えられたビルが今また取り壊されようとしているのだから
まさに隔世の感あり。

日劇に初めて入場したのは
東京五輪が閉幕して3ヶ月後の1965年1月末。
観たのは「いしだあゆみショー」である。
あの頃、いしだあゆみが大好きだった。

ご覧のように数寄屋橋下の外堀はすでに埋め立てられ、
その上を東京高速道路が走っている。
数寄屋橋自体も消滅してしまった。
道路の高架下は西銀座デパート。
その下の丸の内線・銀座駅は当時、西銀座駅を名乗った。
フランク永井の「西銀座駅前」がヒットしたのは1958年だったか。

  ♪ メトロを降りて 階段昇りゃ
    霧にうずまく まぶしいネオン
    いかすじゃないか 西銀座駅前 ♪
           (作詞:佐伯孝夫)

「東京の暴れん坊」は夜の銀座もしっかりとらえている。
映画における銀座の定番ショット
「不二家」のフランスキャラメル、
ソニービルの看板にはラジオとテープレコーダー、
森永キャラメルの大地球儀、
奥には「服部時計店」の時計塔も見える。

後楽園球場の貴重なシーンもあって
当時の正捕手にして5番打者・藤尾茂が
11号ホームランをかっとばしている。
直後の場内アナウンスがまた泣かせるのだ。
「6番ファースト・王、背番号1」―たまらんでしょ?

藤尾は数年前まで消息不明だった時期があった。
往年の巨人ファンはみな心配したものだが
現在は三重県・鈴鹿市で
ゴルフ場の副社長を務めていることが判っている。

旭演ずる主人公はパリ留学を終えて帰国し、
家業を継いだ「キッチン・ジロウ」の若主人。
並木通りと思しき目抜き通りに店はあるが、これはセット。
セットが多いものの、ロケもふんだんに取り入れられ、
進行のテンポが小気味よく、観るものをあきさせない。
往時の銀座を偲ぶには恰好の1本だ。

ラストシーンも紹介しておきたい。
ルリ子と旭が屋上で追いかけっこ
地球儀と時計塔の位置関係から
貴金属と鉄道模型を商う「天賞堂本店」の屋上だろうか。
当時は画面の彼方、勝どき・晴海方面に
高層ビルは1棟も建っていなかったのだ。
広い東京の空よ!