2013年5月3日金曜日

第569話 何年ぶりかな?肉骨茶 (その1)

肉骨茶(バクテー)とは何ぞや?
ご存知だったらアナタは東南アジアの食文化に長けている方だろう。
三文字の漢字から連想するに
お葬式の際に飲むお茶みたいな感じがしないでもない。
肉と骨とお茶、インパクトは相当に強いものがある。

実はコレ、骨付きの肉を中国のスパイスで煮込んだ料理で
茶葉は使われてないのにスープの色はウーロン茶そっくり。
もともとは福建地方の出身者が
マレーシアやシンガポールで普及させたものだ。
現地では白飯とともに主として朝食時に食べられる。
味噌汁のぶっかけみたいに飯の上に汁をかける人も少なくない。

料理名と食材からは濃厚なスタミナ食と思われがちだが
味は意外にアッサリとしており、
シツッコいのが苦手な方もスイスイいけてしまう。
むしろ八角(スターアニス)や丁子(クローヴ)の匂いが駄目な人は
まず敬遠することになりそうだ。

マレーシアの首都クアラルンプール近くの港町クランが
発祥の地といわれるものの、シンガポール港との説もある。
もともとは港湾労働者が安くて精のつく食事として始めたようだ。
その点、秋田の鉱山がルーツとされる日本の煮込みと似ていなくもない。
いや、骨付き豚と馬の臓物の差異はあれど、瓜二つではないか。
スタミナ食であることは確かだ。

発祥に異論はあっても広く普及度が高いのはシンガポールだろう。
なぜか?
マレー人はイスラム教徒がほとんどで豚肉を忌避するからだ。
逆にシンガポール人は民族構成の8割近くを華人(中国系)が占めており、
宗教による束縛がないに等しい。

J.C.が初めて口にしたのは1983年。
週末の朝、ブキティマ地区のホーカーズセンターで食べた。
ホーカーズセンターというのはいわゆる屋台村、
当地のあちこちに存在する。
もっとも有名なのがニュートン・サーカスだ。

金曜の夜からの徹マンが明け、
メンバー4人で雀卓を食卓に替えて食した。
高級鮨屋のオーナーのYチャンがいて、彼が言い出しっぺ。
卓が整うとYチャン、やおら厚めの海苔をもみほぐして
肉骨茶にまぶし出したものだから
こちらは内心、オイ、オイ、鮨屋はこんなモンまで海苔掛けかヨ!
唖然としたものだ。

ところがどっこい、隣りの華人たちまで海苔掛けを始めたのには
唖然どころか、ブッタマゲた。
何のことはない、海苔は持込みじゃなくてトッピングだったのだ。
もちろん注文しなけりゃ付いてはこない。
とにかくその朝、肉骨茶と出会ったのであった。

=つづく=