2013年5月1日水曜日

第567話 想い出のスクリーン (その2)

 ♪ 逢えば別れが こんなにつらい
   逢わなきゃ 夜がやるせない
   どうすりゃいいのさ 思案橋
   丸山せつない 恋灯り
   ああ せつない長崎ブルースよ ♪
          (作詞:吉川静夫)

喫茶と食事の両方を提供するカフェみたいな店で
谷隼人がジュークボックスから流れる「長崎ブルース」を聴いている。
3曲でたった50円、そんなに安かったかなァ。
コインが切れたところで見ず知らずの松方弘樹が足してやる。
これが縁で谷は松方の舎弟になってゆく。

ラストでは長崎に移るが映画の舞台は主に新宿。
新宿地球座やシネマ新宿には通ったけれど、
好きじゃないから関わりはそう深くない街。
それでも映画が作られた1969年前後はひんぱんに訪れた時期だ。
スクリ-ンに映る光景が今はなつかしい。

 ♪ 恋は私の恋は 空を染めて燃えたよ
   夜明けのコーヒー ふたりで飲もうと
   あの人が云った 恋の季節よ    ♪
         (作詞:岩谷時子)

同じ年の「恋の季節」(松竹)は
「勝利者」(1957年)の井上梅次がメガホンをとった。
裕次郎映画を何本も撮った監督ながら、これは驚くほどの駄作。
ピンキーはともかくキラーズに役者はムリで演技になっていない。

ところがこの映画は貴重な映像を残してくれていた。
東京タワーのそばの高台にあったロシア料理店「ヴォルガ」。
今は無きシアターレストランの店内がしっかりと映し出されている。
舞台ではルバシカ姿のバンドが「ともしび」を奏でている。
世の流行とは逆行して時代に取り残された店だが
料理も雰囲気も好きだった。
高校時代に読んでいた英字誌ステューデントタイムスには
いつもアルバイト募集の広告が載っていたっけ・・・。

最後に「ヴォルガ」へ行ったのは10年以上も前。
東麻布の「富麗華」で食事したあと、
そう遠くもない飯倉まで歩いていった。
ザクースカ(冷菜)をつまみながら
ウォッカとズブロッカを飲んだ。

そのあとでまたプリンスホテルのメインバー「ウインザー」に流れた。
実によく飲むネ、ジッサイ。
中国の紹興酒、ロシアのスピリッツ、アメリカのカクテル、
一晩かけて世界の三大帝国を飲み干したってわけだ。
ハハ、もっともそんな実感はまったくなかったけど・・・。
あれれ、想い出のスクリーンが
いつの間にか想い出のはしご酒になっちまった。

=つづく=