2013年5月22日水曜日

第582話 待ちきれなくて立会川

ひと月も前になるけれど、
会食の席で顔を合わせたのみとも・H澤サンから耳寄りな情報。
京急・立会川に抜群の焼きとん屋があるというのだ。
やはり同席した大井芸者のS乃チャンも絶賛するではないか。
大井と立会川では目と鼻の先だからねェ、うらやましいなァ。

店の名を「鳥勝」という。
屋号に”鳥”を冠していても、”豚”が実効支配しているらしい。
そんな良店ならば、機会を見つけてご同行願いたいと申し出る。
では近いうちにと、その場はそれで収まった。

しかし、翌日から「鳥勝」が気になって仕方がない。
日にちを決めてセッティングしたわけじゃないから
訪問はいつになるか知れたものではない。
そこでせっかちなJ.C.、
情報入手の二日後に待ちきれず独り出掛けていった。
立会(立合い)だけに突っ掛けちまったのだ。
「待った!」をする相手とていないしネ。

立会川駅からホンの数分、
二級河川・立会川のほとりに「鳥勝」はあった。
ロケーションは申し分なく、佇まいが懐旧の思いを催させた。
店内がまたスゴい。
手前右手にカウンター、奥はゆったりめのテーブル席。
実に昭和20年代のワールドが拡がっていた。
先客に詰めてもらい、キツキツのカウンターに何とか着席がかなう。

ビールはキリンラガーの大瓶。
さっそく焼きとんを所望する。
(塩)―ハツ・カシラ・上ミノ (たれ)―レバ・パイ・シロ
の計6本は上ミノだけが160円、あとは80円均一。
パイは牝豚のオッパイ(乳房)のことだ。
ほかにテッポウ・アブラ・ガツ・ナンコツといったラインナップ。
野菜類もピーマン・しし唐・ねぎの3種が用意されている。

いずれも良質な豚もつたちだった。
品川の芝浦市場が近いからねェ。
この質でこの値段じゃ、宵の口から客が押し寄せるのも致し方ナシだ。
焼きとん屋では生肉はあまり食べないJ.C.、
ふと見たら隣りのアンちゃんは
レバ刺しとセンマイ刺しの2皿を目の前に置いているヨ。
センマイだろう、そのうちに噛む音がコリコリと聞こえ出した。

ただ、ここの焼きとんには問題が一つある。
かなり化学のチカラを感じるのだ。
ごまかしの利かない(塩)だと、それがより強く出てしまう。
昭和2~30年代の庶民の食卓には必ず一つ、
赤いキャップの瓶が置かれていたから仕方がないか。

H澤サン推奨の煮込み(320円)を追加した。
うわぁ~お、彼の言った通り、牛もつのシロコロは
腸壁にビッシリと脂肪の塊りを蓄えているのだった。
コッテリ度では深川・木場の「河本」と双璧だ。
ドン引きする人もいようが、好きな人にはこたえられまい。

東京23区内とは思えぬほどにレトロな西口商店街をぶらつき、
印象深き立会川の町をあとにした。
このあと五反田では買い物、
渋谷では理髪のせわしない春の夕まぐれであった。

「鳥勝」
 東京都品川区南大井4-4-2
 03-3766-6349