2013年5月14日火曜日

第576話 フラれフラれて大塚の町 (その2)

大塚では「千通食堂」、「高木」と連続してフラれ、
流れ着いた庚申塚の町である。
通りすがって入店した「ファイト餃子」の白菜漬けに困惑している。
表面にフラれていた、もとい、振られていたのはカチョーさんだ。
外で注文する新香にはコレがあるからヤバい。
特にお婆ちゃんがいる店のリスクが高い。
かといって注文の際に
「化学調味料は掛けないでネ」―なんて頼もうものなら
「ウチはそんなもん使ってないわヨ」―ピシャリとやられたりするから
下手な口はたたけず、いや、ヒジョーに難しいんだわ、ジッサイ。

ティッシュを取り出し、ビールの泡で湿らせ、
銀の粉末の除去に励んでいたら
お運びの婆ちゃん、再びわれらの卓に近づいて
「アララ、すみませんねェ、嫌いなんですねェ」―この一言が心を和ませる。
「あっ、いいの、いいの、気にしないでいいから」―J.C.は年寄りにやさしい。

てなこって、1軒寄り道したあと、「庚申酒場」に移動した。
およそ1年ぶりの再訪だ。
見覚えのある腰の曲がった婆ちゃんが独りで切盛りしている。
木造二階建ての一階が酒場、二階が住まいになってるらしい。
ビールはしこたま飲んできたから、さっそくの燗酒、銘柄は失念した。

お銚子を1本空けてホッピーに切替える。
「庚申酒場」のつまみはおでんと焼き鳥が二枚看板。
だいぶ暖かくなってきたから、おでんはパスして焼き鳥を。
看板とはいえ、タネはたった3種類しかない。
鳥の正肉、豚のタンとレバー、それだけなのだ。
長年培った経験から少数精鋭に絞り込んだのであろう。
おのおの2本ずつ焼いてもらった。
タンは塩、ほかはタレでお願いする。
いずれもレベルが高く、素朴に旨い。

今にも朽ち果てそうな店内のカウンターに居並んだのは
われわれを含めて3組のカップル、それぞれにわけあり風だ。
互いに干渉することもなく、言葉一つ交わすでもなく、
時がゆったりと流れてゆく。
As Time Goes by とはこのことをいうのだろう。
滞在時間は1時間弱、流れ着く先のあてとてなく店を出た。

ここはお婆ちゃんの原宿、とげぬき地蔵通りのはずれだ。
招かれるようにお地蔵さま(高岩寺)方面に歩みを進める。
左手に「ときわ食堂」を見ながら通り過ぎた。
この通りには「ときわ食堂」が2軒あり、今ゆき過ぎたのは息子の店。
先には本家、母親が営む店舗がある。
本家は商売繁盛とみえて隣りを買収し、
2軒続きの大店(おおだな)に変身している。
外食産業不況の折に経営手腕を発揮して
事業を拡張するところもあるのだ。
ご同慶の至り、ちょいと寄ってみようかな。

=つづく=

「ファイト餃子」
 東京都豊島区西巣鴨3-7-3
 03-3917-6261

「庚申酒場」
 東京都豊島区巣鴨4-35-3
 03-3918-2584