2013年5月16日木曜日

第578話 鎌倉でもまたフラれ (その1)

春のときめきとのみともについ誘われて鎌倉へ。
振り返れば、初めて鎌倉を訪れたのは小学五年生の遠足。
長谷の大仏におめもじがかなったのもこの年だった。

あれは1962年、ちまたで橋幸夫と吉永小百合がデュエった、
「いつでも夢を」が流れまくっていた年。
中尾ミエの「可愛いベイビー」、北原健二の「若いふたり」、
倍賞千恵子の「下町の太陽」、ジェリー藤尾の「遠くへ行きたい」、
名曲の数々が庶民の耳をなぐさめてくれていた。

みちのくから上京してきたR子がまだ在京中。
東京はあちこち行ってるのでたまには湘南を案内せよという。
つき合いのいいJ.C.は「あいよ!」と素直に請け負う。
江ノ島では面白くないから久方の鎌倉となったわけだ。
およそ5年ぶりだろうか。

「昼めしは何食べる?」―一応訊いてみる。
「何でもいいわ」―まったく頓着していない。。
どこでもいいのなら気分もフトコロも大楽勝じゃん。

鎌倉から江ノ電に乗り、一つ目の和田塚で降りて
川端康成や田中絹代がひいきにした「つるや」に直行した。
ここは鰻屋。
あまり注文する客がいないけれど、
天丼・かつ丼・親子丼もめっぽう美味しい。

気持ちよく二人暖簾をくぐったものの、
応対のオネエさんのひとことは
「ご予約のお客さまですか?」
んなもんしちゃあいないからイヤ~な予感。
ときに12時15分前。
「ですと、ご案内は13時半くらいになりますが・・・」
ゲッ! 
こいつはいかん、いけませんです。

タカをくくり、予約を怠っていた。
軽い気持ちで親子かかつ丼のアタマでビールを飲み、
しばらくしたら、うな丼をいただこうという腹積もりが
一瞬にして崩壊しちまった。
ぬかったなァ、鎌倉の老舗を甘くみちゃったなァ。
豊島区・大塚ではフラれにフラれたが鎌倉で二の舞かァ。
またもや途方に暮れた二人であった。

道沿い、同じ並びにシラス丼や海藻の赤モク丼を食べさせる、
海の家みたいなレストランがあった。
でもさすがに相方もそこでは不満のご様子だ。
小町通りに戻れば小津安二郎と小林秀雄がひいきにした天ぷら屋、
「ひろみ」があるが人混みの道を歩きたくない。

そこでひらめいたのが鶴岡八幡宮の奥にある一軒の鮨屋だった。
未訪ながら確か「和さび」といったハズだ。

=つづく=