2013年5月24日金曜日

第584話 その日のうちにウラ返し (その2)

東京メトロ千代田線・綾瀬駅南口の「綾瀬飯店」。
ラーメンのどんぶりを前にしてエビス顔である。
傍から見ればバカ面だが、客はほかにいないんだもんネ。

麺はやや縮れの中細で透明感から多加水麺であろう。
ラーメンフリークではないから詳しくは判らない。
それよりも麺の上の具材がおいしそう。
2枚のチャーシューに思わず拍手だ。
いや実際に手はたたかない。
シアワセだが手はたたかない。
なぜって音を聞きつけたオバちゃんが
「なんか用だっぺか?」―テーブルに来ちゃうからネ。

これは正真正銘、本物のチャーシュー。
漢字で書けば叉焼だ。
読んで字の如し、チャーシューは焼き豚であって
けっして煮豚ではない。
近頃のラーメン店のチャーシューは十中八九、
煮豚に成り下がっている。
ラーメン職人の良心、今いずこ?

紅麹による薄い紅色の縁取りがいじらしい。
横浜中華街で食べる拉麺、もしくは柳麺といったふう。
味のほうもまことにけっこうであった。

シナチクがまたいいんだわ。
手割きによる細身のそれはコリコリの食感がすばらしい。
割り箸みたいにぶっといわりには柔らかくて大味なのが多いなか、
昔ながらのシナチクにもやはり拍手を送りたくなる。

青みは小松菜。
どちらかといえば、ほうれん草が好みだが無いよりはずっとマシ。
そしてスープに浮かんだ刻みねぎの細かいこと。
これが町場の中華屋とは一線を画するところで
一流ホテルの中華料理を思わせる。

やや硬めの麺はノビにくく、シコシコ感が持続する。
おだやかな滋味あふれるスープは
化学のチカラを寸分も感じさせない。
こんなラーメンを探し求めていたんだヨ。
これがラーメンの原点なんだヨ。
魚粉をぶっかけたのなんか食いたくないんだヨ。
猫じゃあるまいし。

思い起こせば、すべては
新御茶ノ水駅のホームにすべり込んできた綾瀬どまりの電車のおかげ。
もしあれが我孫子ゆきだったら
おそらく永久にこの店との出会いはなかったハズ。
ありがとさんヨ、綾瀬ゆき。
ワンコインでは安すぎるラーメンのどんぶりに最敬礼して駅に向かった。

=つづく=

「綾瀬飯店」
 東京都足立区綾瀬2-23-20
 03-3603-9948