2013年5月8日水曜日

第572話 TVの前にまた居座って (その2)

そう、あの天覧試合は
大森・平和島の美原通りにあった「H岩パン店」で観た。
パン屋では三和土(たたき)の上に集まった近所のガキどもが
茶の間にくつろぐ家族の頭越しに背伸びして立ち見するのだった。

実はこのパン屋には苦い思い出がある。
長嶋のサヨナラホームランから1年後くらいだったかな?
町内相撲大会の翌日、やはり夏の夜だった。
例によってパン屋に赴くと、
デップリ太った店のオバさんが前に立ちはだかる。
「キミが来るとウチの子が嫌がるのよねェ」―こう言われて
「ハイ、そうですか」―すごすごと退散の巻である。
何のこたあない、前夜の大会でぶつかった相手がパン屋の息子だ。

当時のひいき力士は大鵬にめっぽう強かった褐色の弾丸、
房錦であったが2年ほど前に引退した横綱・千代の山も好きだった。
房錦みたいにぶちかましができないので
立会いから千代の山の得意技・突っ張りでいったら
哀れパン屋の息子、ホんの2、3発で土俵の外へ。
これが憎しみとなり、因縁を生んだわけである。
振り返れば、子どもの相撲で突っ張りなんかするヤツはいなかった。
親にしてみりゃ大事な跡取り息子が
土俵上で引っぱたかれてるように見えたんだろうねェ。

以来、しばらくTVとはご無沙汰だったが
懇意にしていた隣りのウチがTVを購入してくれて
今度はもっとリラックスしながら
巨人戦やプロレス中継を観られるようになったのだ。

さて、子どもの日の翌日の振替え休日。
差し迫ってすることもなく、夕方からTVの前へ。
わが身を引き寄せたのはNHK-BSの「昭和の歌人(うたびと)たち」だ。
その日の特集は作曲家・遠藤実。
この人も亡くなってすぐに国民栄誉賞を受けている。

ハナシがちょいと脇道にそれるが
国民栄誉賞ってのは不思議な偏りを持つ賞ですな。
作曲家では古賀政男を筆頭に服部良一、吉田正を含め、
計4人も受賞しているのに作詞家はゼロ。
これはどういうことかというと、
賞を授ける側の首相にせよ、内閣にせよ、
作詞だったら自分でもそこそこ書けるとタカをくくってるんじゃないかな。
その点、作曲にはそれなりの修業や才能が求められるから
政治家の能力じゃ、手も足も出ないってことなんだろうと思う。

野球もまた別の意味で偏っている。
王・衣笠・長嶋・松井と、過去の受賞はすべて打者だ。
賞を辞退した二人、福本とイチローもまたしかり。
投手のほうは神さま・仏さま・稲尾さまの稲尾和久ももらってないし、
400勝投手の金田正一もカヤの外。
使用球が改められる以前の打高投低が
国民栄誉賞の世界ではそのまま歴然として残っているんだわ。

=つづく=