2013年5月30日木曜日

第588話 夜霧に浮かぶチェコ (その1)

 ♪ 俺のこころを 知りながら
   なんでだまって 消えたんだ
   チャコ チャコ
   酒場に咲いた 花だけど
   あの娘は可憐な 可憐な娘だったよ ♪
            (作詞:宮川哲夫)

敬愛するフランク永井のナンバーでも
かなり好きな曲が「夜霧に消えたチャコ」。
フランクにとって恩師の吉田正ではなく、渡久地政信の作曲は珍しい。
雰囲気的に津村謙の「上海帰りのリル」に似ている。
この曲のヒットはリアルタイムで記憶していて時に1959年。
まだ小学二年生だった。
ちなみにサザンの「チャコの海岸物語」は1982年のリリースだ。

前置きが長くなったが今日のテーマはチャコではなくてチェコ。
東欧のチェコ共和国である。
そんなの関係ねェだろ! ってか?
まあ、まあ、くだらん駄ジャレと思し召して先をお読みくだされ。

チェコがスロヴァキアと分離独立したのは1993年。
ちょうどその年、東欧を独りで旅した。
ニューヨークからハンガリーのブダペストに入り、
その後、ウイーン(オーストリア)→ブラチスラバ(スロヴァキア)→
プラハ(チェコ)→ベルリン(ドイツ)をめぐった。
隣国のハンガリーやスロヴァキアと比べ、
チェコ国民の眼光は鋭く、まるでヨソ者を拒絶するかのごとくだった。
暗い過去が人々の心に影を落としていたものと思われる。

1年ほど前だったか、四谷三丁目にチェコ料理店を発見。
いつものことだが、そのうち行こうと思いつつも
いつしか時は流れてそのままになっていた。
背中を押してくれたのは鎌倉山のP子。
「たまにはエスニックに連れてって」―このひとことが決め手となった。

エスニックとなると、ヴェトナムやタイなど東南アジアの料理を連想するが
実はJ.C.、これらの国の料理はそれほど好まない。
ニョクマム、ナンプラーなど、
いわゆる魚醤をイマイチ好きになれないからだ。
魚醤の呪縛から解き放たれるシンガポールの味は
彼の地に長く棲んだこともあって大好きなのにねェ。

P子の所用があった本郷は東大前で夕刻に落ち合う。
レストランの開店まで1時間の余裕があり、歩いて行くことにする。
本郷→春日→後楽園→飯田橋→神楽坂→牛込→
市谷→曙橋→四谷三丁目というルート。
直線的に向かうと時間が余るから迂回したわけだ。

途中、神楽坂から市ヶ谷に下る牛込中央通りを歩いたが
ちょいと来ない間にずいぶん寂れてしまった印象。
都営大江戸線の牛込神楽坂ができたとはいえ、
駅から近くはないこの界隈は櫛の歯が抜けるように
閉店する飲食店が目立つ。
神楽坂のメインストリート、早稲田通りを光とすれば
牛込中央通りは言わば影、坂を降りながら一抹の寂しさが胸をよぎる。

=つづく=