2013年5月15日水曜日

第577話 フラれフラれて大塚の町 (その3)

都内各所に散在する「ときわ食堂」は基本的に独立採算。
ただ、巣鴨の2店だけは母親から息子への枝分かれだから
その限りではないかもしれない。

庚申塚の「ファイト餃子」で生ビール、
「庚申酒場」で日本酒とホッピー、
しっかり飲んだが食べるほうはそうでもない。
殊に相方はまだ腹八分目どころか、四分目がいいとこであろう。

敷居をまたいでJ.C.はビールの大瓶、R子は緑茶ハイ。
ウエイトレスのオススメのつまみはばちまぐろの刺身だ。
部位を訊ねると、言葉に詰まったから赤身とみた。
ベツに食べたいものがあるでもなく、素直にオススメに従う。
町場の食堂で刺身はめったに頼まないけれど、
当夜は粉わさびを承知のうえで注文した。

価格は7~800円だったかな? まずまずの刺身が運ばれた。
冷酒を追加して醤油で割り、即席のヅケを作成する。
でもネ、でもですヨ、やや水っぽいばち赤身に粉わさでは
いくらヅケにしても限界があろうというもの、
大葉を所望してまぐろのシソ巻きとシャレこんだ。

大葉はエクストラ・オーダーにつき、ウエイトレス嬢に
「チャージしていいからネ」―こう伝えると
彼女返って来て曰く、
「5枚で150円ですが、いいですか?」―もちろん、いいとも。

刺身一品じゃ愛想がないのでコロッケを追加し、1個ずつつまんだ。
まぐろもコロッケもさして旨くはないけれど、
町内にこんな店が一軒あったら住民には歓ばしいことだろう。

時刻は早くも23時半。
そろそろお開きにするべェかと勘定を済ませ、そぞろ歩く巣鴨の町。
白山通りを南下、山手線の陸橋を渡って左折、裏町を往った。
この時間ともなればフーゾク系の店も扉を閉じ始めている。

そのとき夜更けの町にぼんやり浮かぶ看板が目にとまった。
店先に立つと場末感満載のスナックで、しかも店名が「R子」。
当夜の相方と同名にして漢字も一緒。
わが人生を振り返ると、こういうシチュエーションの場合、
まず間違いなく扉をたたいてきた。
その夜もけして例外ではなかった。

わりかし小ギレイな店内に先客はおらず、ママが独り。
日本語の会話に問題はまったくないが上海出身の女性だった。
とりあえずビールを抜いて三人で乾杯。
あとはすすめられるままにカラオケである。
相方の1曲目は松田聖子、こちらは吉幾三だ。
ジェネレーション・ギャップもあることだし、互いに無難な選曲であろうヨ。

ところが相棒の2曲目で椅子からすべり落ちそうになった。
よりによって「ブランデーグラス」だとヨ。
コレはオトコの、それもオジさんの歌だろうに。
まっ、いいでしょう、いいでしょう、お聴きしましょう。
ふ~ん、けっこう歌いこなすじゃないの。
飲むほどに、酔うほどに、歌うほどに
グラスの底には残り少ない夢が揺れているのでありました。

=おしまい=

「ときわ食堂」
 東京都豊島区巣鴨3-14-20
 03-3917-7617