2013年5月31日金曜日

第589話 夜霧に浮かぶチェコ (その2)

1時間余り文京区の南から新宿区の東側を歩いて
四谷三丁目の「だあしゑんか」に到着した。
20年ぶりに味わうチェコ料理である。
人種の坩堝(るつぼ)ニューヨークに10年以上も棲みながら
チェコの料理を食べたことはない。
チェコのレストランがなかったからねェ。

店は小さなビルの2階で10人も入ればいっぱいのキャパ。
壁の本棚にはチェコの書籍がズラリ並んでいる。
ミュンヘン、札幌、ミルウォーキーと並ぶビールの名所、
ピルゼンのピルスナー、ウルケルの小瓶で乾杯。
このビールはマンハッタンの行きつけのロシアンレストランで
たびたび味わっている。

ワインリストのハンガリーの赤ワイン、エグリ・ビカヴェールを発見。
彼の地ではもっともポピュラーな銘酒の名は”雄牛の血”という意味。
2800円という値付けのわりにけっこうイケてしまう佳酒である。
そこそこワインにうるさいP子もうなづきながらグラスを口元へ。

さて料理だ。
前菜代わりに酸っぱいキャベツのザウアークラウトを頼むと冷製で現れた。
本場ドイツのように温かい状態で供されると思っていただけに意外だ。
何となく鰻屋の”とりあえずお新香”みたいな感じ。

お次はチェコ名物のブランボラーク、いわゆるじゃが芋のパンケーキ。
パンケーキといってもクレープやギャレットよりもずっと小さめ。
その代わり厚みがあって見た目はイングリッシュマフィンによく似ている。
香草のマジョラムを利かせるのが特徴で
素朴な美味しさがチェコのビールによく合う。
訪れたら頼まなきゃ損の小品がコレだ。

続いてモラヴィア風ローストポーク。
モラヴィアはチェコ東部の地方名。
「ラ・ボエーム」で世に知られたボヘミア地方の東に位置する。
隣接するハンガリーの文化の影響を強く受けている。
それで”雄牛の血”が置かれていたのかもしれない。
一見、豚の角煮にそっくりのコイツが飛び切り旨かった。
塩気が強いものの、中国は浙江料理の東坡肉(トンポーロー)より好き。
白飯との相性もいいハズだ。

メインはビール煮込みのグラーシュ。
ビール・パプリカ・玉ねぎ・キャラウェイ・マジョラムがたっぷり使われている。
これもよかった、よかったがズシンと重い。
接客の女の子がハーフサイズもあると言うのでハーフにしてよかった。
付合せに国民食のクネドリーキが添えられているのがうれしい。
クネドリーキは牛乳入りのふんわりとしたパンだ。

期待値を上回る夕食に満足して夜の町へ。
外苑東通りを渡って振り返ると、
夜霧の中ににレストランの灯りが浮かび上がっていた。
夜はまだ浅い。
これから相棒が初めてだという四谷荒木町の散策である。
荒木町は”プチ神楽坂”と呼べるほど、趣きの漂う町。
ぐるぐるとくまなく歩き回るとしよう。

「だあしゑんか」
 東京都新宿区舟町7 田島ビル2F
 03-5269-6151