2013年10月14日月曜日

第685話 暗黒街のカクテル

今日は珍しく酒の、それもカクテルの話。
仙台のピッツェリア「パドリーノ・デル・ショーザン」で
イワシの生臭みをゴッドファーザーで消したことは前回書いた。
店名のパドリーノはゴッドファーザーのことだから
これ以上の選択はなかったろう。
実はその店で2杯目の食後酒にゴッドマザーを所望したのだった。

接客してくれたカメリエーレ(ウエイター)くん、
当惑した面持ちで問うて曰く、
「それはどのようなカクテルでしょうか?」ー初めて耳にした様子だ。
ファーザーとマザーは暗黒街の匂いのする二大カクテル。
片方だけでは文字通り片手落ちとなろう。

J.C.応えて
「ファーザーのウイスキーをブランデーに代えればいいんだヨ」
「アッ、そうですか、ハイ、聞いてきますっ!」
すぐに戻った彼が言うにはブランデーがなくて作れないんだとー。
イタリアンにブランデーがなくても文句は言えない。
仕方ないからグラッパを1杯飲って仕上げとした。

ところがこの悶着には後日談がある。
恥ずかしながらマザーのレシピは
J.C.の完全な思い違いだったのだ。
アマレットにブランデーはフレンチ・コネクションで
ゴッドマザーのベースとなるスピリッツはウォッカが正しい。
フレンチ・コネクションはカクテルよりも映画のほうが有名だ。

いや、まいったなァ、カメくんに嘘を教えちゃったヨ。
蒸留酒の王様がウイスキーなら女王様はブランデーだろうと
勝手に抱いた先入観が災いしちまった。
しっかしウォッカには意表を衝かれた。
ウォッカ・ベースならロシアン・マフィアとでも
名付けてくれればよいものを―。

ゴッドファーザーと似た味わいのカクテルにラスティ・ネイルがある。
錆びたナイフならぬ、錆びた釘を意味する酒は
スコッチ・ウイスキーと
スコッチを原料とする甘いリキュール、ドランブイで作られる。
使用されるウイスキーは絶対にスコッチでなければならない。

ちなみにゴッドファーザーのレシピにウイスキーの特定はない。
スコッチでもアイリッシュでもカナディアンでも構わないわけだが
ここはやはりニューヨークっぽくバーボンに定めてほしい。
そのほうがハードボイルド感が増す。

ついでにふれておくと、生アーモンドような香りのおかげで
アマレットの原料はアーモンドと思われがちだが
実際はアンズの種の核から作られる。

生まれた場所ははロンバルディア州のサロンノ。
したがってこの酒の正式名称はアマレット・ディ・サロンノだ。
ときに1525年のことで、実に500年近い歴史に彩られている。
16世紀前半に北イタリアで活躍したフレスコ画家、
ベルナルディーノ・ルイーニと
彼の絵のモデルとなった女性とのラブ・ロマンスが生んだ銘酒である。