2013年10月18日金曜日

第689話 越前そばには大根おろし (その2)

三味の爪弾き絶えて久しい神楽坂の昼下がり。
都内にそう多くはない越前そばの「九頭竜蕎麦」に独り。
越後・新潟のへぎそばはちょくちょく見かけても
越前・福井のおろしそばはある意味、とても貴重だ。

”ふくいの味”と銘打たれたリストに
”すこ”なる不審なも物品を見つけ、
接客のオニイさんを手招いたところ。
訊けば、里芋(ハスイモ)の茎を甘酢で漬けたもの。
里芋の茎となりゃ、かの有名なずいきじゃないか。
泣く子も黙る、もとい、世の女性たちが
こぞって泣いて歓ぶというあの肥後ずいき。

何だそれは? ってか?
まっ、世間一般のシロウト衆は
知らないほうが身のためでござんす。
けっして上から目線でもの申すわけじゃござんせんが
この手のものの使用は積極的にオススメできない。
それでも興味のある方はググッてみてくんらまし。

ずいきを食したことがないわけではない。
でも、訊ねた以上は注文しなきゃならない空気が漂った。
すると可愛いカップリングで現われた。
味は別段取り立てて評することもない
ごく脇役の箸安め的存在だ。

昼酌もそこそこに締めのそばをいただこう。
注文したのはもちろん越前おろしそば。
初見參ならこれでいくしかなかろうヨ。

そばはいわゆる挽きぐるみ、田舎そばに近い。
素朴な風情漂えり
木鉢に盛られたそばにはねぎと削り節が、
そばつゆにはあらかじめ大根おろしが投入されている。

食べ方は鴨せいろやつけ麺みたいに
つゆにくぐらせるのではなく、つゆをぶっかけて食べる。
とはいえ、かけずにつけて食べても文句を言われることはない。
その点は客の好きずきだ。
そばは噛みしめ感を楽しむタイプでおろしとの相性もピッタリだった。

3種の味を味わえるおろしそば三昧が人気。
おろしそばより一般的なざるそばを頼んだ場合、本わさびが添えられる。
ざるそばを所望し、わさびとおろし板を確保したうえで
刺身をお願いするのは賢いオーダーの仕方と言えよう。

店舗は2階だが窓が大きく内装もしゃれていて居心地がよい。
日曜ということもあり、カップルや家族連れが入れ替わり訪れ、
地元の常連に支えられているさまがうかがえる。
そば屋には恵まれている土地柄ながら、神楽坂にまた1軒、
そばの佳店を発見した歓びは大きいものがあった。

「九頭竜蕎麦」
 東京都新宿区神楽坂3-3
 03-6228-1886