2013年10月28日月曜日

第695話 国破れて山河あり (その2)

夕暮れの森下の町にいる。
「またビールのハナシかヨ」―
そう、そしられても弁解するつもりはござらんが
まあ、お聞きくだされ。

何もエビスが悪いわけじゃない。
世に、この銘柄を好むビール党は星の数ほどいるだろう。
ただ、J.C.が主張するのは濃厚なビールを置くのなら
真逆にある軽快なタイプも用意すべし、その一点だけだ。
同じサッポロでもエビスと黒ラベルはガソリンと軽油ほどの差がある。
飲食店を経営するみなさん、
そこんとこを、よお~くわきまえておくれでないかい?

日本そばの「京金」はエビス一辺倒ながら
近所の大衆酒場「山利喜」にはサッポロラガー、いわゆる赤星がある。
よってこのクラシックなビールでのどを潤してから
そば屋に移動を試みるのが手筋というものだ。

「山利喜」は数年前に建て替えられた。
新築後は初めての訪問になる。
記録を紐解いてびっくりしたのは
何と10年以上のブランクがあったこと。
好きな森下の町にはちょくちょくやって来るにもかかわらず、
かくも長きあいだ、無沙汰をしていたとは!
先週紹介した天ぷら「満る善」や洋食「深川煉瓦亭」を
何度も再訪しているだけに、わが目を疑ってしまった。

とにかく入店した。
以前のように店先に行列なく、心なしか人気のかげりを感じる。
いきなり短い階段をのぼらされ、
カウンター席に身を置いたが、隣との間隔が狭すぎでしょうヨ。
いや、まいったな、昔のほうがずっと居心地がよかった。

気を取り直してくだんのサッポロ赤星である。
大瓶の620円はけっして高くない。
むしろ良心的な値付けといえる。
突き出しは鳥肉入りの筑前煮で、これが300円。
下町の大衆酒場に有料のオッツケ突き出しはそぐわないが
300円なら目クジラを立てるほどのこともあるまい。

名代の煮込みは500円。
東京三大煮込みの一翼を担うと讃された傑物を十数年ぶりに味わう。
ややっ、食べてびっくり玉手箱、コクも風味もあったものではない。
脂っこい牛のシマ腸を使う煮込みは
もともと好きなタイプではないけれど、こりゃ、あまりにヒドいや。
旨みがどこかにすっ飛んで駄品と堕している。
適正価格は350円がいいところ。
哀れ、煮込み王国の崩壊を見る思いがした。

国破れて、山河あり。
障子破れて、サンがあり。
早いとこ障子サン、もとい、東海林サンのもとに向かおうっと・・・。

「山利喜」
 東京都江東区森下2-18-8
 03-3633-1638