2021年12月2日木曜日

第2898話 海の代わりにお濠が見えた

しばらくカレーから遠ざかったため、

食べたくなって出向いた市谷左内町。

目指すは「CAFÉ DE MOMO」だ。

 

激辛のビーフと中辛のバターポークを

H&HのSサイズで所望した。

ビールはハートランドの中瓶が売切れていたが

ドライの小瓶があってお願い。

 

ブツ切り肉のビーフカレーはさすがに辛い。

途中で何を食べているのか判らなくなってくる。

一方のバターポークは粗挽き肉使用のマイルド味。

結果的に良いコンビネーションとなった。

 

ユニークなのはレリッシュ。

甘らっきょう、桜大根、きゅうりピクルスを

みじんに切って合わせたパステルカラーが可愛い。

渋野日向子が全英女子オープンで勝ったとき、

着ていたポロシャツに似ている。

 

1560円を支払い、左内坂を下ってゆく。

身体が自然に前傾するほど急な坂道に

耳の奥で百恵チャンが歌い始めた。

 

♪ 急な坂道 駆けのぼったら

  今も海が 見えるでしょうか

  ここは横須賀   ♪

 

こちらは駆けのぼらずに

歩きおりているのだが

海の代わりにお濠が見えてきた。

あれは市ヶ谷名物の釣り堀だネ。

 

市ヶ谷見附まで下り切り、今度は並びにある、

亀岡(かめがおか)八幡宮の急な石段を上った。

芝の愛宕神社ほどでなくとも相当に急だ。

愛宕同様に亀岡も急階段の男坂のほかに

ゆるやかな女坂を備えている。

 

上り出すと「横須賀ストーリー」の代わりに

永井荷風の小説「つゆのあとさき」の一文が

よみがえってきた。

場面は銀座通りのカッフェーの女給・君江の情夫、

清岡がたまたま見かけた君江の跡を尾けたところだ。

抜粋して紹介したい。

 

君江は八幡の鳥居を入って振返りりもせず

左手の女阪を上って行く。

いよいよ不審に思いながら

地理に明るい清岡は感づかれまいと、

男の足の早さをたのみにして

ひた走りに町を迂回して左内阪を昇り

神社の裏門から境内に進み入って様子を窺うと、

社殿の正面なる石段の降り口に沿い、

眼下に市ヶ谷見附一帯の濠を見下ろす崖上のベンチに

男と女の寄添う姿を見た。

尤もベンチは三、四台あって、いずれも密会の男女が

肩を摺寄せて腰をかけていた。

 

現在、境内にベンチは一台としてない。

いちょうと桜の古木が茂れるばかりである。

ちなみにこの亀岡八幡宮は1479年、

太田道灌が鎌倉の鶴岡八幡宮の分霊を祀り、

鶴に対する亀としたのが始まりである。

 

CAFÉ DE MOMO

 東京都新宿区市谷左内町27-1

 03-3269-8893